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中外製薬 科学技術情報部の社員が解説! リアルワールドデータ(RWD)とは?

こんにちは、CHUGAI DIGITALです。
今回は、当社の科学技術情報部 PHCインテリジェンスグループを率いる葛西隆に、「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」の基本戦略のひとつであるDxD3 で掲げるリアルワールドデータ(RWD)とは何か、RWDによって期待されることは何か、聴きました。

プロフィール 

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葛西 隆(科学技術情報部 PHCインテリジェンスグループマネジャー)
大学の専攻は生物統計学。生物統計部門、プロジェクト推進部門、クリニカルサイエンス部門を経て、2020年より科学技術情報部 PHCインテリジェンスグループマネジャーとして個別化医療(Personalized Healthcare; PHC)を推進。

01.葛西さんが所属する「科学技術情報部」って何をする部署なんですか?

葛西:科学技術情報部は、破壊的イノベーションを起こしうる新しい技術やトレンドをいち早く捉えて、当社のビジネスに実装させることをミッションとした組織です。

情報を収集し知識体系化するだけでなく、社内のニーズを吸い上げ新しい技術とマッチングするハブ機能、技術実装に向けたPoCの実施、そして経営層への提言も担っています。私たちの役割は将来こうあるべきという像を描き、バックキャスティングで何をすべきか考えること。この活動の中で、RWDの医薬品評価への活用も推進しています 。

02.リアルワールドデータとは?

葛西:リアルワールドデータ(RWD) とは、「様々な情報源から日常的に収集される患者さんの健康状態や医療行為のデータ」です。

創薬プロセスにおける臨床試験では、年齢や病歴などあらかじめ規定された参加条件に合った患者さんに開発中の薬を使用いただき、薬の安全性や有効性のデータを細かく取得します。

これに対して、日常の医療現場で生じる電子カルテや健診のデータなど、実臨床下(real world )から取得する情報がRWDです。臨床試験のデータと比較すると、RWDは含まれる患者さんの背景が多様でリアルタイム性があり、情報源によってはデータ量が非常に豊富なものの、医薬品評価を目的として集められた情報ではないため十分に活用されていませんでした。

03.RWD活用を推進している理由は?

葛西:まず、近年の医療ICTの進展で、電子カルテや健診データなど医療現場だけで使われていたデータを企業でも解析・活用できる技術や環境が整ってきたこと。そして、当社が取り組む研究開発の「効率化・高度化」に対して、RWD活用が不可欠になってきたということです。

効率化:開発の期間を短縮したり、コストを削減したりする
高度化:従来の方法では開発が困難な疾患に対する開発を可能にする

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様々な活用場面があると思う中、特に着目しているのが「希少フラクション」と呼ばれる、ごくまれな遺伝子変異があるタイプのがんに対する新薬開発です。

例えば、ある開発品が希少フラクションで効果がありそうだとわかっていても、患者さんが少ないため、効果を検証する一般的な方法すなわち「投与するグループ」と「投与しないグループ」に分けて効果を比較するランダム化比較試験(Randomized Control Trial; RCT)の実施が現実的でなかったり、倫理的な問題が生じる可能性があったりします。

このようなケースでRWDを参照して薬の安全性や有効性を示し、それが医薬品として国から承認を得るのに適切な証拠(エビデンス)として認められれば、患者さんに有効な治療薬を届けられるチャンスが広がると考えています。
また、従来のRCTのデータ取得にかかっていた膨大な時間とコストが、RWD活用で抑えられる可能性もあり、よりスピーディかつサステナブルな臨床開発につながるとも期待しています。

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* 中外製薬のRWD活用のゴールイメージ:誰もがRWDを当たり前の “+1 option”として考え、使いたいときに適切に使える環境が整備され、より良い意思決定・連携活動を実現できていること

04.RWD活用における中外製薬の強みは?

葛西:中外製薬は、ロシュ・グループの一員であり、ロシュが保有するRWDやプラットフォームにアクセスしやすい点で優位性がありますね。私もちょうど今、同じくロシュ・グループであるFlatiron Health社のがんゲノム情報を含むRWDを取得し、がんの治療開発に活用する取り組みに関わっています。

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さらに、社内でRWD活用のための部門横断ワーキンググループが立ち上がり、データサイエンティストの採用や育成、解析基盤の拡充がなされ、RWDの議論が非常に活発になっていることも大きな強みだと思います。

05.RWD活用のあるべき未来像は?

葛西:ちょっと抽象的ですが、データを核に価値が創出されてぐるぐる循環していくのが理想だと思います。

新薬開発に必要なデータがあり、それに基づいて研究開発し、患者さんが薬を使用する過程でまたRWDなどの新たなデータが蓄積される。生じたデータは、次のステップのより良い薬の開発につなげられる。このような正の循環を起こすには、患者さんをはじめとする社会全体に医療分野でのデータ活用の有用性を知っていただくことも大切だと考えています。

私たちは企業として患者さんの健康に貢献する存在であり続けたい。目指すのは「個別化医療(PHC)」すなわち患者さんにとっての価値に基づく、アウトカム重視の医療の実現であり、これは当社の価値観の1つである「患者中心」のアプローチです。その方策の1つがRWD活用だと考えています。RWDはあくまでツール、データをいかに使いこなすかが重要です。

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