中外製薬DXの2年を一気に振りかえる!|ビジョン実現に向けて取り組んできた道のり、そしてチャレンジ(前編)
こんにちは、CHUGAI DIGITALです。
革新的新薬を事業のコアに据えながらイノベーション創出を目指す中外製薬は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を成長戦略のキードライバーの1つに位置づけています。DXを全社横断で推進する組織として2019年10月に発足したのが、デジタル戦略推進部です。
今回は、執行役員 デジタル・IT統轄部門長として当社のDX戦略を統括する志済 聡子(写真 右)、デジタル戦略推進部長として現場をマネジメントする中西 義人(写真 左)の二人が対談。デジタル戦略推進部の発足から「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」の実現に向けて取り組んできたこと、そして、次のチャレンジについて話し合いました。
2019年にデジタル戦略推進部を発足してからの道のりは?
-想定を超える変化が社内外で起きています。
志済:中西さんはじめ組織の立上げメンバーと議論し、ビジョンと戦略が無いところから始めて「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」(図を参照)を策定してから、2年がたちました。私たちが描いた中外製薬のDXが目指すべき絵姿は、日を追うごとに具現化され、新たな施策も加わっています。想定を優に超える変化が社内外で起きたと感じています。
DxD3…Digital transformation for Drug Discovery and Development
中西:私もそう思います。「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」における3つの基本戦略の骨格は変わらないものの、新たにやるべきことが次々に増えていった。
志済:最初はシンプルだった絵姿が“てんこ盛り”になってきたぞ、と。
「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」の3つの基本戦略の土台となる『デジタル基盤の強化』の進捗は?
-IT基盤の強化と組織風土改革、人財育成が進んでいます。分かったのは、やはり大事なのは「人財」だということ。
志済:データ解析・統合のデジタルIT基盤となる「CSI, Chugai Scientific InfrastructureⓇ」もAWSをベースに構築が完了。運用フェーズに入り、Ver2.0の開発が始まっています。順調ですね。
また今後5年で、製薬企業の基幹業務システムとして長年稼働してきた複数の大型システムを、一気にロシュのITシステムと統一化させます。これが実現すると、ビジネスのやり方、働き方が相当に変わってくると思います。ロシュとのシナジーを活かしてコスト効率、生産性を徹底して追及し、全てのバリューチェーンの効率化につなげていきます。
中西:ロシュと中外のアライアンスの強みを活かして、ITで使えるものは導入して効率化・コスト削減しようと、どの部門も動いています。この流れは今後、どんどん進んでいくと思います。
志済:「デジタル基盤の強化」においては、CSIのようなハード面だけでなく、イノベーション創出に向けた組織風土改革、人財育成をしっかりと進めてきました。分かったのは、やはり大切なのは「人財」だということです。その要となる施策として成果を上げたのが、デジタルイノベーションラボ(DIL)とCHUGAI DIGTIAL ACADEMY(CDA)です。
中西: DILは中外社員によるアイデアを具現化する仕組みで、デジタル戦略推進部とITソリューション部は企画書作成からPoCまでのプロセスを支援、良いアイデアには予算を付与し、起案者は主体的にプロジェクトを推進します。社員であればだれでも応募ができ、これまで400件近いアイデア応募がありました。10月現在、数十件がPoC (Proof of Concept)フェーズに、数件が本番展開フェーズに進んでいます。
CHUGAI DIGITAL ACADEMY(CDA)はデジタル人財を体系的に育成する仕組みです。座学(Off-JT)と実践(OJT)による包括的なプログラムを開発し、2021年4月に第1期のプログラムをスタートさせ、第2期、第3期と進んでいます。教育コンテンツは今後も拡充を予定しており、大学・研究機関と共同開発して学生へ提供する産学連携の社会貢献スキームも検討しています。
基本戦略の2つ目のステップ、『すべてのバリューチェーンの効率化』の状況は?
―4つの重点ポイントが始動。投資効果を見るのはこれから。
中西:「すべてのバリューチェーンの効率化」を実現するため設定した重点ポイントは、「工場のデジタル化(スマートプラント)」、「治験のデジタル化」、「デジタルマーケティング(顧客インターフェイス改革)」の3つです。さらに今年からは、業務プロセスの見直しと定型業務を自動化する「RPA」が加わっています。また、これらの他にもやるべき重点ポイントがあるのだろうかと考えており、そのためのリサーチや検討も進めています。
志済:RPAは人海戦術的で非効率な定型業務を見直し、業務プロセスを全社で改革する肝入りの取組みです。臨床開発部や製薬本部、中外製薬ビジネスソリューション(シェアードサービス子会社)では特に利用が進んでおり、他本部での推進にも大変期待しています。
中西:今はとにかく量にこだわって進めているフェーズ。バリューチェーンの効率化がどこまで進んでいるか、投資対効果のモニタリングを強化していきたいと考えています。
基本戦略の3つ目のステップ、『デジタルを活用した革新的な新薬創出(DxD3)』の進捗は?
―着々と成果を出しています。「バイオの中外」に続く、ヘルスケア×デジタルにおける競争優位を確立したい。
中西:DxD3においては、「AIを活用した創薬(AI創薬)」「リアルワールドデータ(RWD)」「デジタルバイオマーカー(dBM)」という3つの重点ポイントそれぞれが着々と成果を出しています。
AI創薬に関しては、デジタル戦略推進部が立ち上がる前から研究本部で複数プロジェクトが進んでいましたが、他本部との情報共有が十分でなかった。この2年でデジタル戦略推進部が技術の体系化を支援したこともあり、プロジェクト数が倍以上に増えるなどAI創薬の研究が一気に加速しています。画像解析など、目的は違えども同じAI技術を使うことが多いので、横の連携は重要です。
また、他社では低分子の構造解析でAIをつかうことが多いのですが、中外には独自の抗体技術と膨大なデータの蓄積があり、MALEXA(Machine Learning x Antibodyの頭文字をとった中外製薬が独自に構築したAI技術)を開発する*など、まさにバイオの中外のノウハウとデジタルを掛け合わせるやり方で、競争優位性を出していけると思っています。
RWDについては、データ利活用を進めるにはまだ制度的な課題が多いのですが多様なプロジェクトが進んでいます。デジタルバイオマーカーは具体的な成果はこれからですが、様々な医薬品開発プロジェクトでデジタルバイオマーカーを使いたいという要望が恒常化してきており、社員の意識変化を感じています。
志済:RWDは、日本の創薬力やデータ利活用の遅れがCOVID-19でハイライトされてしまい、だからこそ中外は頑張らねば、というところもありますね。
*“Antibody design using LSTM based deep generative model from phage display library for affinity maturation”
(https://www.nature.com/articles/s41598-021-85274-7)