新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

イベントレポート:米国のデジタルヘルスと医療DX(デジタルトランスフォーメーション)最新事例紹介

こんにちは、CHUGAI DIGITALです。
中外製薬はCHUGAI DIGITAL VISION 2030を掲げ、デジタルを活用した革新的なヘルスケアソリューションの提供を目指しています。ビジョン実現に向けて注力する取り組みの1つに、オープンイノベーションの促進があります。今回は、その一環として4月下旬に開催した社内向けオンラインイベントの様子を紹介します。イベントは社員なら誰でも参加できる形式で行われ、清峰正志先生(Kicker Ventures, Founder & Managing Partner. 東北大学特任教授(客員))、池野文昭先生(Stanford Biodesign, Stanford University Program Director (U.S) Japan Biodesign. MedVenture Partners取締役)のお二人を講師にお招きし「米国のデジタルヘルスと医療DX(デジタルトランスフォーメーション)最新事例紹介」をテーマにご講演いただきました。

【清峰先生講演より】ベンチャーキャピタリストとして見てきた米国のデジタルヘルス・スタートアップの概況とトレンド

米国のデジタルヘルスのスタートアップへの投資額は年々増加し、2020年は14.1兆ドル規模と2013年と比較すると約7倍になっています*。対して2020年の日本国内のベンチャーキャピタル投資金額が1,512億円**なので、日米で比較すると桁違いに米国はデジタルヘルスへの投資額が大きいです。

* DIGITAL HEALTH VENTURE FUNDING 2013-2020, Rock Health 2021
http://www.vec.or.jp/wordpress/wp-content/files/2020_investment_trend_us_cn_jp_20210401.pdf

** 2020年VC投資動向(日本・米国・中国との比較), ベンチャーエンタープライズセンター
https://rockhealth.com/reports/2020-market-insights-report-chasing-a-new-equilibrium/

参考URL:2021/5/10アクセス

米国デジタルヘルスの直近10年を振り返ると、2018年までの数年間はIPOで上場するスタートアップが無かったこともあり、投資熱に過ぎないと言われることもありました。しかし2019-2020年に上場したスタートアップの時価総額は総額30兆円に到達し、IPO予備軍は30社以上いると言われています。COVID-19の影響もありデジタルヘルスは投資対象として注目されるだけではなく、社会のヘルスケア課題を解決するイノベーションとしての重要性が増しています。昨年もオンライン診療、処方薬デリバリー、AI診断サポート、疾患モニタリングなど幅広いデジタルヘルスのスタートアップへの投資がなされています。

米国デジタルヘルスのトレンドの1つに在宅バーチャル・ケアがあります。2020年に話題となったのがTeladoc Health社によるLivongo社の買収です。Livongo社は糖尿病患者の疾患管理アプリケーションを企業健康保険に提供し、顧客企業の従業員の健康改善と医療費の削減で成果を出しています。一方、Teladoc Health社は遠隔診療のインフラを拡充し約5000万人の会員を有する企業です。遠隔診療のプラットフォーム上で個別疾患のアプリケーションをスケールできるという点は重要です。いきなり正解のソリューションが登場したのではなく、デジタルのインフラが10年以上かけて整ってきて、そこに新しいビジネスモデルが乗っかった好事例と言えます。同様の成長を目指すスタートアップは、糖尿病以外の慢性疾患や精神疾患をターゲットに多数生まれています。

オンデマンドの在宅検査・疾患モニタリングは2つめのトレンドと言えます。従来は病院で行われる検査を自宅で受けられるデバイスやプラットフォームが登場しています。患者はスマートフォンやパッチ型のデバイスで疾患の状態をモニタリングされ、在宅で検査・診断を受けて、処方薬は自宅に直接届く、といった具合です。処方薬のデリバリーでは、Pill Pack社を買収したAmazonのオンライン薬局が話題になりました。

創薬プロセスにおいてもデジタルヘルスへの投資は熱を帯びています。AIドラッグディスカバリーのスタートアップと製薬企業が提携する動きは活発で、臨床開発プロセスのデジタル化も進んでいます。動物や人を対象とした臨床試験をコンピュータ上のバーチャルツインに代替させるというバーチャル治験の有用性を検証するスタートアップも生まれています。つまり米国のヘルスケアは、デジタルのインフラが確立し、その上で新しいアプリケーションやビジネスモデルが展開され融合する時期に来ています。次に起こるのは新ビジネスによる既存領域の置き換えです。

画像2

【池野先生講演より】米国の医療DXが世界で最も進んでいる理由と、医療DXの未来予測

米国の医療DXがなぜ世界で最も進んでいるのか。それには3つの理由があります。

① 医療のペインポイントが大きい
② デジタルのインフラが整っている
③ 新しいことに挑戦する人・企業がいる

1つめですが、高額な医療費と健康寿命の短さ*は米国の大きなペインポイントです。米国の対 GDP 保健医療支出は世界一で、医療コストはオバマケア(医療保険制度改革法)によって制定された国民皆保険制度を運営するメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)と民間の生命保険会社が負担しています**。また、患者自身の医療費支払額も高額です。医療DXはこのペインポイントを解消するものとして受け入れられています。

*Health expenditure per capita: Health at a Glance 2019, OECD 
https://www.oecd-ilibrary.org/sites/876d99c3-en/index.html?itemId=/content/component/876d99c3-en

*Healthy life expectancy (HALE) Data by country, WHO
https://apps.who.int/gho/data/view.main.HALEXv

**Health Insurance Coverage in the United States: 2019 Current Population Reports By Katherine Keisler-Starkey and Lisa N. Bunch Issued September 2020
https://www.census.gov/content/dam/Census/library/publications/2020/demo/p60-271.pdf 

参考URL:2021/5/10アクセス

2つめのデジタルのインフラについては、全ての家庭に光回線を引くのが理想ですが、流石にそうはなっていません。しかし、スマホの普及率は非常に高いです。そこで注目されるのが5Gです。5Gは遠隔医療に欠かせないインフラになっていきます。

3つめの理由は、私自身スタンフォード大学バイオデザインクラスの学生やスタートアップの人と付き合う中で、大いに体感していることです。リスクを受け入れ新しいことに挑戦しようというマインドは、日本人も見習うべきところがあると思います。

医療DXの中心にあるのが遠隔医療です。今米国はCOVID-19のため、遠隔診療はnice to haveから must haveになっています。国の動きを追うことで、医療DXの未来はある程度予測できると思います。昨年からFDA(米国食品医薬品局)は、遠隔診療を普及させるべくウェアラブルの医療機器やデジタルソリューションの規制緩和に好意的ですし、CMSは急性期医療に対する遠隔診療についても医療機関にインセンティブを与える施策を打ち出しています*。Mercy virtual care center(2015年に開設された米国初のバーチャル・ケア・センター)をはじめとする仮想病院まで普及すると、対面でやるべき医療は何なのか改めて検証する必要が出てくるでしょう。

*Acute Hospital Care at Home Program Approved Hospitals - 04.05.21
https://www.cms.gov/files/document/covid-acute-hospital-care-home-program-approved-list-hospitals.pdf

参考URL:2021/5/10アクセス

未病のヘルスマネジメントも、今後伸びていく領域でしょう。生活習慣を改善して個人が健康になるパーソナルヘルスマネジメント、国民やコミュニティの健康寿命を延伸させ医療費を削減する集団のヘルスマネジメント。これら2つのヘルスマネジメントのニーズを満たすには、データ解析が鍵となってきます。米国でも医療費を負担する生命保険会社からGAFAをはじめプラットフォーマー、スタートアップ、医療機器企業、製薬企業と様々なプレイヤーがこの課題に取り組んでいます。

画像2

中外製薬はDXとオープンイノベーションをさらに促進させる

今回のイベントの冒頭、志済聡子(執行役員 デジタル・IT統轄部門長)は次のように参加者に呼びかけました。
「今、デジタル技術による製薬・ヘルスケア産業の破壊的な構造変化が起きています。DXによって革新的な新薬の創出を目指す私たちは、オープンイノベーションをさらに促進していく必要があります。デジタル戦略推進部ではそのための組織体制や仕組みを強化しており、本日も皆さんにデジタル企業とのパートナリングのヒントを得てもらいたいです。」

また、イベント後半には中外の臨床開発本部、トランスレーショナルリサーチ本部、科学技術情報部のリーダー社員が登壇してパネルディスカッションを行いました。講師のお二方にも引き続き登壇いただき、ライブチャットで寄せられた社員からの質問も交えながら、デジタル・オープンイノベーション促進に向けた課題や展望を議論しました。

講師の先生からは、「中外製薬のような日本の大企業にはスタートアップに価値を提供するパートナーとして、彼らと一緒にデジタルヘルスを育てていってほしい(清峰先生)」、「オープンイノベーションには、シリコンバレーの学生・企業など“よそ者”の視点を入れて自らの見方を変えることが大事。開発した新しいソリューションは、実証実験でどんどん検証していくことを期待する(池野先生)」とメッセージを頂きました。

講師プロフィール

清峰正志先生(Kicker Ventures, Founder & Managing Partner. 東北大学特任教授(客員))
2017年にKicker Venturesを創業し、事業会社の戦略アドバイザリー・日米スタートアップ支援や事業開発・人材育成を通じたヘルスケアエコシステムの構築に取り組む。2021年には次世代ヘルスケア・デジタル医療領域に特化したベンチャーキャピタルを設立。それ以前は三井物産グローバル投資(MGI)にてグローバルライフサイエンスチームリーダーとしてアーリーステージのスタートアップ投資活動を統括。主に米国のデジタルヘルス・医療機器領域のスタートアップ投資を専門とし、多数のEXITに携わる。米国Dartmouth CollegeよりエンジニアリングB.A.取得。


池野文昭先生(Stanford Biodesign, Stanford University Program Director (U.S) Japan Biodesign. MedVenture Partners取締役 )
医師。自治医科大学卒業後、9年間、僻地医療を含む地域医療に携わり、日本の医療現場の課題、超高齢化地域での医療を体感する。長年Stanford大学にて早期医療機器R&Dに従事。専門領域は地域医療、医療機器前臨床、医療機器投資。


この記事が参加している募集

イベントレポ

CHUGAI DIGITALの公式アカウントです。中外製薬のデジタル技術への取り組みや、患者さんに革新的な医薬品を届けるための想いを発信します。