データサイエンスで一緒に新薬の創出にチャレンジしましょう!製薬企業8社が手を組み呼びかけた、700名参加のオンライン勉強会とは
こんにちは、CHUGAI DIGITAL です。研究開発を志向する製薬企業では、業務プロセスにおけるデータサイエンス活用のニーズが年々、高まっています。当社のみならず、国内の大手製薬企業はデジタル活用の新方針を打ち出し、データサイエンス人財の採用や育成に取り組んでいます。しかし一方で、
データサイエンティストやデータエンジニアなど、データサイエンスの実務を担う人財が日本全体で不足している
競争が激化するIT・デジタル人財の転職市場において、製薬企業への転職やキャリアパスのイメージが浸透していない
「製薬×データサイエンス」で何ができるのか。どのような取組みや事例があるのか、そもそもIT・デジタル人財に認知・理解されていない
という課題を抱えています。そこで、同じ課題をもつ製薬企業で手を組み、データサイエンスの具体的な取組みやキャリアパスをより広く発信していこうと立ち上げたのが「製薬×データサイエンスMeetup 」というイベントです。昨年に続き2回目の開催となる今年は、アステラス製薬、エーザイ、小野薬品工業、塩野義製薬、住友ファーマ、武田薬品工業、田辺三菱製薬、中外製薬と8社からデータサイエンスやDX推進を担当するメンバーが集まり企画をしました。創薬や業務プロセスの課題を業界の外の方にも分かりやすく説明し、各社のデータサイエンスの取組みや技術、キャリアパス、仕事としての魅力も伝えられるようプログラムを練り、6月25日(土)に開催を決定。Peatixで参加を呼びかけたたところ、約700名の皆さまに参加いただくことができました!
発表要旨
「創薬研究データを用いた創薬研究加速化プロジェクトの取り組み」森 健一/アステラス製薬株式会社 アドバンストインフォマティクス&アナリティクス
創薬研究は「探索研究」と「最適化研究」の2つのフェイズに分けることができる。最適化研究では、日々生まれる多くの実験データに基づいて仮説を更新し、目的の特性が得られるまで分子の改良を繰り返す。従来は研究者の勘や経験に基づき、試行錯誤で行っていた最適化プロセスにAIやロボット、優れたインターフェイスを導入することで、創薬研究の加速化を目指している。具体的な事例として、化合物データと実験データを学習させて化合物の機能を予測するモデルの構築や、グラフデータを用いた試薬自動選択のモデル構築について解説する。
「IT業界のデータサイエンティストが実施するライフサイエンスデータ解析」赤田 圭史/エーザイ株式会社 hhcデータクリエーションセンター 5Dインテグレーションユニット
hhcデータクリエーションセンターでは、臨床・非臨床より幅広くデータ利活用の機会を探し、深層学習をはじめとするAI技術やRWDを用いたデータベース研究などデータサイエンスを基軸とした幅広い活動を実施してきた。IT業界より創薬の世界に飛び込み、AWS環境の使い勝手を一つずつ開拓し、取り組んできたデータ活用事例より、その経験を紹介する。リアルワールドデータの活用として、自然経過予測/治療効果予測アルゴリズムの開発、がん患者さんの治療選択に関する解析・可視化について解説。さらに、深層学習を用いた実験動物の行動解析支援システムなどの取組みを紹介する。
「リアルワールドデータを用いた安全性シグナル検出の取組み」渡邊 崇/小野薬品工業株式会社 デジタルIT戦略推進本部 デジタル戦略企画部データ戦略企画推進室
医薬品の安全性情報管理(PV・ファーマコヴィジランス)において、安全性情報の収集・評価に携わっていた時から「なぜ、偽陽性、偽陰性が多いシグナル検出を各社は使い続けているのだろうか?」「結局、個別の症例評価とその集積でリスクを判断するのなら、シグナル検出は不要では?」と思っていた。そこで近年のAIブームに乗っかり、AIでシグナル検出をしたらより信頼性に足るシグナルを検出できるのではないかと考え取り組んだ内容を紹介する。
「感染症領域におけるデータサイエンスの取り組み」宮澤 昇吾/塩野義製薬株式会社 データサイエンス部
塩野義製薬では感染症に対し、データサイエンスを用いた様々なアプローチを実践している。例えばモデリング&シミュレーションの技術を用いれば、仮想的な設定での感染拡大のシミュレーションが可能となる。この結果は医療経済効果の評価等に活用可能である。またRWDを用いれば、薬剤処方実態の解明・実臨床での安全性評価等に対し、スピーディーで大規模な分析が可能となる。本講演ではこれらの事例についての紹介や、塩野義製薬のデータサイエンス部が持つスキル・バックグラウンドの紹介等を行う。
「デジタル技術・データを活用した業務変革活動のエッセンス」石阪 修吾/住友ファーマ株式会社 データデザイン室
住友ファーマでは製薬の一連のバリューチェーンにおいてデジタル技術・データ活用による業務変革を進めている。 このセッションの前半では、ある事象のトレンド予測の事例を紹介しながら、業務変革活動に求められるテクニカルスキルについて示す。続いて、私たちが活動を推進する上で重視している業務理解や課題設定の方法論を、経営企画部における活動の事例とともに紹介する。
「希少疾患領域におけるレセプトデータ分析~取り組む意義と実際の課題について~」辻 弘貴/武田薬品工業株式会社 JPBU データ・デジタル&テクノロジー部
希少疾患領域では、確定診断を受けている患者さんの割合が少ないことが課題となっている疾患が存在する。レセプトデータ等のリアルワールドデータと機械学習や自然言語処理を活用することで希少疾患の潜在患者および診断率を推定する取り組みと、疾患患者と非疾患患者を分類する訓練データの不均衡性や不確実性等の希少疾患特有の課題への対応策や大規模データを利用したデータ前処理・機械学習を効率的に実施するための対応策について紹介する。
「バイオインフォマティクス及びバイオシミュレーション技術を活用した創薬の課題解決~臨床予測まで」齊藤隆太/田辺三菱製薬株式会社 創薬本部創薬基盤研究所
創薬では様々なデータが、創薬ターゲットや薬の種の発掘、研究開発の生産性の向上など幅広く用いられる。例えば、ヒト・マウスなどの疾患と健常の差を比較することで、新しい創薬ターゲットを薬の開発につなげたり、シュミレーション技術を用いて臨床での薬の効果を予測したり、AI技術の創薬応用について研究している。本発表では特に、自社の医薬品候補の化合物、すでに使われている医薬品の中から別の疾患に有効であることをデータ駆動型アプローチで導きだすドラッグリポジショニングの事例を紹介する。
「少数の胸部X線画像を用いたGANによる画像生成・分類モデルの構築」佐野 勲/中外製薬株式会社 デジタル戦略推進部 データサイエンスグループ
正確な画像診断技術の開発は医療分野の主要な課題の一つである。従来、機械学習を活用した画像診断技術の開発では、学習に用いることができるデータが限られているために高精度なモデルを構築することが困難だった。しかし近年、さまざまな生成モデルが登場したことにより、少数の画像データをもとに高精度なモデルを構築することが可能であることが示唆された。この技術を生かした正確な画像診断技術の実現は、薬剤の投与前後の動態把握や治験に参加できる患者さんの迅速な選択に貢献する。本講演では、胸部X線画像の限られたパブリックデータを用いたGANによるデータ生成とそれらのデータを用いた画像分類モデル構築の取り組みについて紹介する。
※中外製薬のセッションは講演資料を以下に公開しております。資料の無断複製・転載・二次利用は禁止とさせていただきます。
クロストーク:「データサイエンスは製薬バリューチェーンをどう変えるのか」、「リアルワールドデータ利活用に向けて」
プレゼンを行った登壇者を2チームにわけてクロストークを行いました。
前半のトークでは、河村 健士さん(武田薬品工業)が新たに加わりました。モデレーターの永田尚也さん(住友ファーマ)が創薬研究からマーケティングまで製薬バリューチェーン全体の課題を整理。既存の研究開発領域にデータサイエンスが活用されるようになり、生物系、化学系、計算科学系の研究者の意識はどう変化したか、注目する技術・解析手法、ビジネスの意思決定にデータが活用されるために必要なポイントを議論。他業界からみた製薬業界の特徴やデータの魅力、患者さんの健康に貢献したいというモチベーションについても話し合いました。
リアルワールドデータ(RWD)とは日常の実臨床の中で得られる医療データの総称で、RWDの活用により創薬プロセスの効率化や疾患理解の深化が期待されています。後半のトークでは、関沢太郎さん(中外製薬)のモデレートで各社が注力するRWDの領域を紹介。薬剤や検査値の時系列データを用いて疾患予測モデルを構築する、電子カルテの自由記述を自然言語処理で抽出するといった解析事例をみながら、非構造化データを構造化する際の技術・社会的な課題、あるべき解析基盤やデータ人材像について議論しました。
アンケート結果、今後に向けて
アンケート回答者(242名)の9割が「イベントに満足した」「製薬企業に対する関心が高まった」と回答し、
同業他社で課題や知見を共有する試みが面白い
創薬におけるデータサイエンスの活用が分かりやすく説明され、視野が広がった
データサイエンスを推進する各社の組織的な取組みや課題も話題があり、製薬企業での仕事や求められるスキル・ニーズがイメージができた
Slidoや個別相談会で自由に質問ができる雰囲気が良かった
具体的な解析事例の説明はあったが、もう少し踏み込んだ技術的な内容も知りたかった
といったコメントが寄せられました。
また、参加者の所属や業種もさまざまで、製薬企業以外の業種(IT企業、医療機器メーカー、製造業、大学・研究研究所など)からの参加者が6割を超えました。今後もこのようなイベントの開催ができるよう、検討していきたいと思います!