見出し画像

「ヘルスケア×デジタル」で イノベーションを 最新取り組み紹介|CHUGAI INNOVATION DAY 2022 より

こんにちは、CHUGAI DIGITALです。昨年第2回を開催したオンラインカンファレンス「CHUGAI DIGITAL DAY」ですが、今年は「CHUGAI INNOVATION DAY 2022」として「R&D Innovation」「Digital Innovation」にテーマを拡大し、11月14-15日の2日間にわたり開催しました。企業、アカデミア、行政のリーダーが一堂に会し、ヘルスケア領域のR&D、DX、オープンイノベーションにおける取り組みやトレンドを紹介するCHUGAI INNOVATION DAY。今回のnoteでは「Digital Innovation」をテーマとした3セッションの講演とディスカッションの内容を振り返ります。

「R&D Innovation」をテーマとした3セッションの報告記事はこちら

Digital Innovation|Session1_AI/ロボティクス/BMI『ヘルスケア×デジタル』の最前線

最初のセッションは「AI/ロボティクス/BMI『ヘルスケア×デジタル』の最前線」。AI/ロボティクス/BMIなどの技術トレンドについて、その社会実装に向けた課題と展望を議論しました。

牛場先生 ご講演

牛場 潤一先生(慶應義塾大学理工学部生命情報学科 教授、株式会社LIFESCAPES 代表取締役社長)より、「ブレイン・マシン・インターフェースが拓く医療とヘルスケア」についてご講演いただきました。

牛場先生:
脳には経験や刺激によって変化する「可塑性」と呼ばれる特性があります。しかし、その制御技術はこれまで明らかにされていませんでした。私たちの研究ターゲットは脳卒中で、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)による脳卒中の機能回復の研究開発に取り組んでいます。BMIは、「可塑性」を誘導する手法、そして脳の仕組みを知るための「ツール」として認知されるようになっています。脳の機能不全や障害を解決し、人々の毎日に寄り添える優しいテクノロジーを目指しています。

諏訪氏 ご講演

諏訪 正樹氏(オムロン サイニックエックス 代表取締役社長)「人と機械の融和の時代におけるロボット・AI・センシングテクノロジー」をテーマにご登壇いただきました。

諏訪氏:
「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」というオムロン創業者立石一真の言葉にあるように、人と機械の関係性は、人の作業を担う「代替」からスタートし、共に働く「協働」へ、さらに人の成長や人らしさを引き出す「融和」へと拡張しています。融和の象徴として開発した卓球ロボットは、人を打ち負かすようにプログラムされていません。いかに楽しみスキル向上ができるのか、を試みています。機械の身体性と五感と頭脳を磨き、技術革新の創出に貢献していきます。

柴田先生 ご講演

本セッション最後の講演は、柴田 崇徳先生(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 上級主任研究員)による「人の心を豊かにするアザラシ型ロボット『パロ』 世界の医療・福祉分野での活躍」についてです。
 
柴田先生:
「パロ」は日本ではペット代替や福祉目的で利用されていますが、海外では複数の国で「医療機器」として医療福祉制度に組込まれています。実際の動物と異なり、アレルギーや噛みつき、感染症など問題点がないことからコンパニオン・ロボットの潜在的需要は大きなものがあります。例えば米国では、認知症、ガン、PTSD、脳損傷等の患者の不安、痛み、抑うつ、不眠、興奮(暴力、暴言、徘徊等)等の診断後の「パロを用いるバイオフィードバック治療」は、保険償還されます。最近では火星長期ミッションの孤独改善の研究にも用いられています。

パネルディスカッション

モデレーターの中西義人(中外製薬株式会社 デジタルトランスフォーメーションユニット デジタル戦略推進部長)が加わり、議論を深めました。2030年をゴールとしたビジョンについては、牛場先生からは「経験やふれあいがテクノロジーによって代替されることが可能になり、BMIも神経、精神、心理的な問題へのアプローチができるようになるでしょう。」と展望が語られました。諏訪氏は「人間の能力を劣化させない、逆に人間に負荷をかけるAIが必要なのではないでしょうか。」と指摘。柴田先生は「パロそのものは変えず、他のデバイスと組み合わせて拡張していくことを考えています。」と具体的な展開を話されました。

人と機械の関係性について諏訪氏は、「空間的な関係性、例えば熟練者の育成なら横で教えるのか、アタッチされて一体となるか、『距離』に幾つかの解があると考えています。」と指摘。柴田先生はパロと人の『ふれあい』が脳に与える影響を説明され、牛場先生からは「BMIは侵襲で身体に埋め込む形もあるが、人の豊かさを大切に、ディストピアにしないための議論をすることも研究の責務です。」と、オープンな対話の必要性を述べられました。

Digital Innovation|Session2_医療ビッグデータ活用で目指す、四方良しの医療DX

「医療ビッグデータ活用で目指す、四方良しの医療DX」セッションは冒頭、モデレーターの中外製薬・中西義人より「医療ビッグデータを利活用し、患者さん、医療者、政府・自治体、医薬品企業の『四方良し』を実現を目指している。そのためには、高品質なデータの不足、ルール整備という大きな二つの課題がある。」と問題提起がされました。

古井先生 ご講演

最初のスピーカー、古井祐司先生(東京大学未来ビジョン研究センターデータヘルス研究ユニット特任教授)より「健康医療産業はデータヘルスで持続可能な長寿社会に貢献する」というタイトルでご講演いただきました。
 
古井先生:
健康医療産業を支える国民皆保険制度には成長と分配が必要であり、データヘルスを通じてサービスを標準化することで、これを促します。健保組合など医療保険者向けに、データの蓄積と活用のためのプラットフォーム構築やマネジメント研修を行うなど、実証実験を始めています。静岡県の事例では、健診データを分析して地域の健康医療情報を可視化しました。それを小学校の保健授業に利用すると、子どもが保護者に家で話し、乳がん受診率の向上につながるというように、実際の行動変容につながることがわかりました。

山元氏 ご講演 

山元雄太氏(株式会社JMDC 取締役副社長兼CFO)より「医療DXにおけるデータプロバイダーの役割と将来像」についてご講演いただきました。
 
山元氏:
JMDCはデータとICTを使って医療費の抑制と健康増進に取り組んでいます。紙のレセプトの電子化を始めた2005年当時からデータベースづくりの根本は変わっていません。患者さんや医療機関、保険者から提供されるデータを使える形にして、政府や製薬企業に活用していただいています。データの用途を開発し、データの種類を拡充する。それを価値に繋げ、サービスをうみ、さらなるデータが生まれる。こうしたサイクルを回すことで、データプロバイダーが社会インフラとなる将来像を描いています。

西村氏 ご講演

西村秀隆氏(内閣府健康・医療戦略推進事務局次長)には「政府が見据える医療DX 次世代医療基盤法」についてご講演いただきました。
 
西村氏:
現在の医療サービスは、すべて過去の医療の情報の恩恵です。医療DXによって、保健医療データがさらに共有されていくことで、切れ目なく質の高い医療が提供され、データの二次利用による創薬や医薬産業の振興が促される社会を実現したい。課題として、情報が安全に使われていくための流通メカニズムの必要性と、医療情報をいかに価値高く活用するかという点。現場の方の声が重要となります。医療ビッグデータを研究や医療機関に活用してもらうための枠組みである「次世代医療基盤法」の活用もその一つです。

パネルディスカッション

和やかな雰囲気の中、改めて西村氏は「目指すのは、医療情報がきちんと共有されて使われる、それに尽きる。」と強調。地域の成功事例がポイントになるという議論の流れで、古井先生は「地域であれば、信頼関係があるので、メリットを感じやすい。一方で、そのスケールアップが課題。」と指摘されました。また、「住民の皆さんは、自分のデータが周囲の人に役立つということに驚かれる。主体的な体験を通じて、価値を感じられるのでは?」とコメントされました。山元氏は「Googleマップのように無料で利用者が利便性を得て、データが取得されることが重要。」とて指摘されました。さらに、費用対効果を示すことの難しさ、目的の共有、データの量と標準化など、ステークホルダー間の合意形成や基盤となるシステムにおける課題感が共有されました。

Digital Innovation|Session3_メタバース/Web3.0 -変革する医療・ヘルスケア

「メタバース/Web3.0 -変革する医療・ヘルスケア」では、医療機器ベンチャーのリーダーに先端事例を紹介していただきながら、メタバース、Web3.0といったテクノロジーのヘルスケアにおける可能性や課題について議論しました。

馬渕氏 ご講演

モデレーターの馬渕邦美氏(一般社団法人Metaverse Japan 代表理事)より「Web3 メタバースの現在と未来」と題して、メタバースを俯瞰しながら、取り組みについてご紹介いただきました。

馬渕氏:
メタバースはもう一つの現実として、次の時代のインターネットとなるものです。Metaverse Japanでは「メタバース領域で個人やコミュニティが多様性を尊重しながら自由に活躍する社会を創る」というビジョンを掲げ、「日本の可能性をメタバースを通じて世界に解き放つハブとなる」ことをミッションとしています。ワーキンググループや、標準化団体とのネットワーク、産官学の連携を通して、日本が輝くため活動しています。

谷口氏 ご講演

続いて、谷口直嗣氏(Holoeyes 株式会社取締役CTO)より「医療でのXR、メタバース実践事例の紹介及び展望」についてご講演いただきました。
 
谷口氏:
ヘルスケア分野で手術支援サービスと教育サービスの二つのビジネスを展開しています。腹腔鏡手術をXR技術で支援をしたり、メタバースと5Gを組み合わせた遠隔カンファレンスなどを提供しています。看護や医療で解剖を苦手とする学生が多いのですが、VRを使えば、より直感的にかつ手軽に学べると期待できます。将来的には、患者さんが運営にコミットできる病院DAO(分散型自律組織)や、仮想通貨を通したヘルスケアサービスなどもあっても良いのではないでしょうか。

蟹江先生 ご講演

三人目の登壇者は、蟹江絢子氏(株式会社ジョリーグッドDTx 事業部上級医療統括顧問)で、「VRセラピストと人で創る新しい精神科医療の未来」についてご紹介いただきました。
 
蟹江先生:
デジタルを活用した認知行動療法の研究に打ち込んできました。日本に認知行動療法プログラムを導入し臨床実践してきましたが、広く展開するためにデジタルを活用する必要がありました。日本の精神科医療に必要なものはバーチャルセラピストである、と考えています。精神疾患の外来患者は増加しています。面談を自動化、一部をバーチャル化し、リアルなセラピストを助ける必要があります。バーチャルセラピストと人で未来の精神科医療を変えていくことがミッションです。

志済 講演 

最後に、中外製薬株式会社上席執行役員 デジタルトランスフォーメーションユニット長志済聡子より「ヘルスケア・製薬産業におけるWeb3.0/メタバース活用の可能性」について紹介しました。
 
志済:
Web3.0/メタバースといった新しい概念や場は、ヘルスケア領域においても新しい価値を生み出すと考えています。Web3.0でデータの主権が変わると、巨大IT企業に依存せずに個人が直接相互につながり、組織の在り方もより分散型になってくるでしょう。本日は「データ」、「組織・コミュニティー」、「価値創造の空間」の観点からWeb3.0/メタバース活用の方向性を整理してお話しましたが、中外製薬は「ヘルスケア×デジタル」のリーディングカンパニーとして先進的な取り組みを推進し、合意形成、個人情報保護、人材不足など課題の解決を見据えつつ、この領域の発展に寄与していきます。

パネルディスカッション

馬渕氏の進行の元で、様々な論点で議論が深まりました。課題感について、谷口氏は「基本的にヘルスケアは保険で回っているため、スピード感を持って前に進められない現状がある。」と指摘。志済は「どうやって投資を回収するのか、大きなハードルである。」とコメントし、蟹江先生は「病院や医者のあるべき姿というものはあるが、メタバースにおける理想がわかっていないところ。」とそれぞれの視点から異なる課題が提示されました。さらに、メタバース活用を推進する人財について、志済は「様々な働き方に寛容にならなくてはいけない。」と大企業としての難しさや、谷口氏は「本気で暗号資産などのビジネスをしたい人は海外に行ってしまっている現状はある。」と指摘しました。一方で、谷口氏は「VRチャットなど、かけ離れた容姿のアバターを使うことで、心は解放されるのではないか。メンタルヘルスの観点で利点はあるのでは?」という指摘に対して、蟹江先生からも「セラピストがアバターである方が、話しやすいという意見も実際にある。VRでしか得られない感覚もあり、ヘルスケアへ役立つことが期待される。」とヴァーチャルならではの利点についても議論が及びました。