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イベントレポ後編:「CHUGAI DIGITAL DAY 2021|ヘルスケアの未来を創る」

こんにちは、CHUGAI DIGITALです。2021年11月18日(木)に開催したオンラインカンファレンス「CHUGAI DIGITAL DAY 2021」を、前後編に分けてレポートします。 (前編はこちら

Session3「『ヘルスケア×デジタル』が貢献する、未来のWell-being」

ヘルステック企業と製薬企業が進める医療DXについて、園田愛氏(株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役社長)福吉潤氏(株式会社キャンサースキャン代表取締役社長)、そして石井暢也(中外製薬株式会社プロジェクト・ライフサイクルマネジメントユニット 科学技術情報部長)にご講演いただきました。

園田氏ご講演

園田氏からは「デジタルを活用した新たな治療体験、医療モデルの創造」というタイトルでご講演いただきました。

 園田氏:
デジタル化した医療の提供を表す「バーチャルケア(virtual care)」は、オンライン診療や服薬指導などリモートで医療行為を行う「Telehealth」に加え、ソフトウェアが副作用モニタリングや重症化予防のための治療を行う「Digital therapeutics」、患者が24時間自分の医療情報にアクセスしたり症状に応じて医師を選択し治療予約をしたりする「Care navigation」という概念があります。

日本国内ではまだ医療現場のデジタル活用が進んでいるとはいえない状況にある中、オンライン疾患管理システム「YaDoc」を提供しています。患者の状態を可視化するのが得意なシステムで、疾患の様子をリアルタイムでモニタリングし、服薬管理や術後の身体管理、医師間のオンラインカンファレンス利用などにも活用できます。長崎県で展開する国内最大の地域医療ネットワーク「あじさいネット」との連携も進んでいます。

 医療現場でのデジタル情報活用は、「医療提供プロセスでの活用」から「治療手段としてのオンライン活用」、そして「患者データの利活用」へと進展することが期待されており、デジタル情報活用のネクストフェイズに突入していきます。

福吉氏ご講演

ナッジによる自治体の予防医療・保険事業を推進する福吉氏から「コモンズによるデータ利活用がもたらす未来」というタイトルでご講演いただきました。

福吉氏:
早期発見で治療可能な疾病が増えたとしても、そもそも早期発見には未診断・未治療の人々が検診などを受診する「行動」が必要になります。人々の行動をいかに変容させるかが、地域の医療や福祉の推進において重要な鍵を握っているのです。

 キャンサースキャンでは、自身のマーケティングノウハウや行動経済学におけるナッジ理論を活かして、700以上の自治体と連携してがん検診や特定健診の受診率向上に向けた取り組みを進めています。例えば住民に対して検診受診を呼びかけるハガキも、視点を変えれば立派な広告媒体です。文章の書き方ひとつで人々の行動率が変化することが自治体での実証実験から明らかになっています。

健康にとって望ましい行動変容を設計するには、質の高いヘルスケアデータの取得と分析が重要になります。自治体はレセプトデータや検診データなど、突合分析や経年分析が可能な情報群を持ちます。しかしこれらのヘルスケアデータは、これまであまり活用されずにいました。

 ここで登場するのが「コモンズ」の考え方です。自治体はデータの管理と場の提供、大学はデータを分析してエビデンスや評価を提供、企業は疾患予防のノウハウや資金を提供するなど、役割を分担し、「住民の健康に資する」という目的のみで連携協定を結び、手を取り合ってデータの価値を住民に届けるというものです。「コモンズ」の構築は健康分野のオープンイノベーションの大きな可能性を持ちます。

石井の講演

中外製薬の石井は「製薬企業が目指す個別化医療」というタイトルで、中外製薬が目指す高度な個別化医療の実現に向けた取り組みや課題を紹介しました。

石井:
中外製薬は医薬品を事業コアとしてきたが、今後は患者アウトカムを最大化するため、あらゆることに取り組んでいます。その鍵の1つがMDAS(Meaningful data at scale)とよばれる、科学的疑問へ答えるために十分なほど高い品質を持ち、分析結果を一般化できる大量のデータの構築です。

MDASの構築と高度な分析によるインサイト抽出によって、疾患の理解を深めたり、早期診断や最適な治療を提供するツールの開発などへと繋げていきます。

クロストーク(園田氏・福吉氏・石井)

3人の登壇者によるクロストークでは、園田氏から「医療者側と患者側で状況を共有するタイミングが、月に数回の医療機関受診だけではどうしても粗くなる点」について、また福吉氏からは「患者や医療者をつなぐシステム全体を見る人が不足している点」について、課題の提示がありました。

またデジタル化導入への更なる課題についての質問に対して、園田氏は「すでに長年かけて完成された形がある医療提供の仕組みがある中で、デジタルを導入するとなればまた新しい完成形を再構築する必要があることへのハードルが高い」と言及、福吉氏からは「理想とするデータが揃うのを待つのではなく、今すぐに手に入るデータからできることを模索することでデータ利活用の機運を高めることができる」との指摘がなされました。

Session4「ビジネスで社会課題解決へ、データでつながるマチ・モノ・ヒト」

最後となる4番目のテーマで取り上げられたのは、ヘルスケアをはじめとする数々の社会課題に立ち向かう「スマートシティ構想」です。中村彰二朗氏(アクセンチュア株式会社アクセンチュア・イノベーションセンター福島センター共同統括マネジング・ディレクター)をモデレーターに迎え、横田美希氏(オムロンソーシアルソリューションズ株式会社事業開発統轄本部コミュニティソリューション事業本部NEXT事業統括部 プロジェクトリーダー)橋本孝一氏(CCCマーケティング株式会社 取締役 IT管掌)、そして志済聡子(中外製薬株式会社 執行役員 デジタル・IT統轄部門長)の計4名によるトークセッション形式で進行しました。

初めに中外製薬の志済より「中外製薬が目指す四方良しの医療DX:RWDの活用」と題し、実臨床現場以外の日常から生み出される「RWD(リアルワールドデータ)」のデータ利活用を通じて、国民・患者、医療者、政府・自治体、医薬品企業の四者全てにとってプラスとなる「四方良し」となるようなヘルスケアエコシステムの構築とビジネスについて紹介がなされました。

 次に、アクセンチュア株式会社の中村氏からは「スマートシティによる自立分散社会の実現へ〜市民・地域主導によるデジタルイノベーション〜」と題した話題提供がありました。2011年から進めている会津若松市でのスマートシティ計画の話題を中心に、市民自ら情報の提供・利用に同意し能動的に参画することで実現する地域型DX事業を紹介しました。

 続いて、オムロンソーシアルソリューションズ株式会社の横田氏からは「ヒト・コミュニティ・マチをつなぐ〜市・事業者・住民協働で挑戦する共生型交通meemo〜」と題して、地域交通システムmeemoについての紹介がありました。舞鶴市と進めるmeemoの実証実験では、住民の利便性の向上と地域の交通事業者が抱える課題の解決を目指しています。高齢者にmeemoアプリを使っていただくためのスマホ教室や外出を促す活動も進めながら、最終的には地域交通エコシステムの再構築に向けたソリューションを提供していきたいとお話しいただきました。

CCCマーケティング株式会社の橋本氏からは、「購買データでつながる健康社会」と題した話題提供がありました。7000万人を超えるT会員の購買データには買ったものの情報だけでなく、購買傾向から読み解くことが可能なその人の嗜好や価値観などのデータも含まれます。この購買データを使って社会課題とサプライチェーンを繋ぐことで世の中を良くする仕組みづくり、会員データと購買データから健康リスクを予想する検証の取り組みもご紹介いただきました。

4名からの話題提供の後のトークセッションでは、まず志済から2点の問題提起がなされました。1つ目の「医療に関わるデータは、保有側は積極的な開示がしづらく利用側はどこまで使えるのか未だ議論が浅い」という点について、中村氏からは「医療から話を始めるのはハードルが高いので、その前に市民のマインドセットが変化するようなデータ利用の成功体験を積むことが重要だ」との指摘がありました。また、横田氏からは「データの利用目的を十分理解してもらえるかがキーになる」、橋本氏からは「サービスとメリット双方の認知が広がった時にうねりになるので、それまでは地道な働きかけが必要」とお話いただきました。

 2つ目の問題提起は「高品質で大量のデータセット(MDAS)をいかに整備するのか。それを牽引する人財の育成について」というものです。横田氏からは「データの透明性やオープンさが信頼関係を育む上でとても重要であり、扱いにくい情報ほどオープンにすることで、そこに関わる人々の課題克服のモチベーションが上がり結束力にもなる」と、実体験に基づく話がなされました。

中村氏からデジタルデバイドについての認識について問われた横田氏は「お年寄りは、スマホ保有率こそ低いものの、実はデジタル機器を毛嫌いしていない。できれば使いこなしたい人がほとんどであり、デジタル機器は若者のものと思い込むのはいけない」と返答。橋本氏からも「たとえどんな年層であっても使いたいと思えるサービスが提供され、使い方を教え合える環境とネットワークに接続可能な環境があれば利用は促進される」という話がなされました。

最後に志済が、「ヘルスケアのデータ利活用を推進する上では、住民が得られるサービスの1つとしてヘルスケアがあるという認識が必要。自分の情報をオプトインで提供して新たな付加価値や利便性を享受することができれば、人々のマインドセットも変わりうるという示唆をいただいた。」と締めくくりました。

クロージング

中外製薬の志済がクロージングトークを行いました。4つのセッションのハイライトを述べた後、「ヘルスケア産業のトップイノベーターを目指す中外製薬ですが、私ども1社の企業努力だけでなく、登壇いただいた講師の方々はじめ、さまざまなパートナー様と共にオープンイノベーションを重ねていくことが大切であると、本日のイベントで改めて認識しました。」と話しました。

メディア掲載


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