2022年度 人工知能学会全国大会(第36回)に出展しました
こんにちは、CHUGAI DIGITALです。
2022 年6月14日(火)-17日(金)に開催された「2022年度 人工知能学会全国大会(第36回)」に出展しました。人工知能学会は人工知能に関連する国内の研究者が研究成果を発表する学会で、今年は京都国際会館+オンラインのハイブリッド形式となりました。
中外製薬は企業展示会場での展示ブース出展、インダストリアルセッション、インタラクティブセッションのポスター発表、研究員によるオンライン説明会を行いました。今回は、当社による出展の様子や発表内容をご紹介します。
展示ブース
中外製薬のDX戦略とAI活用事例を紹介するとともに、AI・データサイエンスに特化したキャリアイベントやインターンプログラムをご案内しました。学会に参加された研究者・学生の皆さんに、当社の取り組みを知っていただく機会になったのではないかと思います。
インダストリアルセッション
「中外製薬が目指す革新的な新薬創出|AI活用の事例紹介」中西 義人(デジタル戦略推進部長)
なぜ中外製薬がAIをはじめデジタル技術の活用を積極的に行っているのか。中西義人(デジタル戦略推進部長)が、社会を変えるヘルスケアソリューションの提供を目指す中外製薬のDX戦略を解説。研究開発から製造・マーケティングまであらゆるバリューチェーンにおけるAI・デジタル活用の事例、デジタル人財を体系的に育成する仕組み「CHUGAI DIGITAL ACADEMY」やそのプログラムの1つとしてALBERT社と共同開発したデータサイエンティスト育成プログラム等について紹介しました。
インタラクティブセッション
「少数の胸部X線画像を用いた画像分類モデルの構築」佐野 勲(デジタル戦略推進部データサイエンスG)
デジタル戦略推進部データサイエンスGの佐野勲がポスター発表を行いました。胸部X線画像の限られたパブリックデータ(NIH ChestX-ray8)を用いてGANによるデータ生成を行って画像分類モデルを構築し、その手法がモデルの精度に与える影響を調べるという研究です。
J-STAGE/人工知能学会全国大会論文集/第36回 (2022)/書誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2022/0/JSAI2022_4Yin238/_article/-char/ja/
オンライン説明会
「MALEXA®:機械学習技術による抗体創薬プロセスの変革」 白井 和英(研究本部創薬基盤研究部マシンラーニングG)
中外製薬が展開する独自の抗体創薬プラットフォームおよび抗体エンジニアリング技術を基盤とした抗体創薬について、研究本部の白井和英が発表しました。
「MALEXA®: MAchine LEarning X Antibody」とは、抗体創薬プロセスで得られる種々の実験データに機械学習技術を適用することで、抗体創薬の効率化や成功確率の向上を目指す新たな技術です。その適用先の一つとして、リード抗体配列取得プロセスがあります。実験過程で得られる大規模NGS(次世代シークエンサー)データを活用した、高い結合活性を有する抗体配列を提案する機械学習技術を開発し、既存の抗体と比較して1800倍以上結合強度の高い抗体配列を導出することができました。
Saka, K., Kakuzaki, T., Metsugi, S. et al. Antibody design using LSTM based deep generative model from phage display library for affinity maturation. Sci Rep 11, 5852, 2021.
https://doi.org/10.1038/s41598-021-85274-7
「ラット性周期の自動判別を可能とするデジタルパソロジストの開発」 江上 陸(研究本部創薬基盤研究部バイオインフォマティクスG)
画像解析×深層学習で病理組織の解析プロセスの刷新を図るデジタルパソロジーの開発について、研究本部の江上陸が発表しました。
創薬の非臨床安全性試験において、実験動物の病理標本の観察と判定は、専門家(パソロジスト)によって行われます。病理専門家が膨大な標本を逐一評価するには、多大な時間とコストがかかります。ここに深層学習を用いた画像解析技術を取り込み、病理画像から性周期を自動で判別する新規の深層学習ワークフローを開発しました。その結果、専門家の判定基準と同等で高精度な性周期判定が可能となる“デジタルパソロジスト”に成り得ることが確認されました。
Onishi and Egami et al. Digital workflows for pathological assessment of rat estrous cycle stage using images of uterine horn and vaginal tissue. Journal of Pathology Informatics, Volume 13, 2022.
https://doi.org/10.1016/j.jpi.2022.100120
いただいた質問と回答の一部をご紹介します。
質問:米国GoogleのAI開発企業DeepMindによるAlfaFoldと、MALEXA®で使われている技術は同じですか?
回答:同じではありません。MALEXA®は、候補薬剤をデザインするために特定の標的分子に対して高い結合活性を有する抗体(タンパク質)のアミノ酸配列を提案する技術です。DeepMindのAlphaFoldは、二次元の遺伝子の配列情報から三次元のタンパク質の立体構造を提案する技術です。異なる技術ではありますが、創薬という目的の達成において関連性をもつようになる可能性はあります。
質問:実験系の研究者チームとモデル構築をする機械学習のチームは、良い連携ができていますか?
回答:相補的な良い関係性にあると思います。ウェット側(実験系)の研究者からの要求仕様を満たす配列をドライ側(計算機・機械学習系)の研究者が返すというドライからウェットへの貢献と、ドライ側が計算機上で構築した仮説の妥当性の検証をウェット側に依頼するというウェットからのドライへの貢献が、どちらかに偏らずバランスよく成り立っています。
質問:AIが専門の情報系の学生です。医学・生物・薬学のドメイン知識なくても製薬企業で活躍できますか?
回答:ご自身の軸となる専門性、知識体系があれば、医学・生物・薬学系の知識・経験がなくとも十分活躍できる機会はあります。最近、AI、計算機科学、データサイエンスの研究者がバイオインフォマティクスはじめ創薬研究の領域に入ってくる例が増えています。
【オンライン説明会 発表者プロフィール】
学会出展で得られた成果とは
今回の人工知能学会では、当社は製薬企業としては唯一の出展企業だったため、「なぜ製薬企業が人工知能学会に?」と出展の理由を聞かれる機会が多くありました。中外のDX戦略、創薬研究をはじめバリューチェーン全体でのAI活用事例やオープンイノベーション推進の取組みを紹介することで、「製薬企業でこのようにAI活用が進んでいるとは知らなかった」「製薬は新規参入のハードルが高いイメージがあったが、自分の研究と意外な共通点がある」「機械学習モデルの精度向上の先に新薬創出というゴールがあり、ウェット(実験系)とドライ(計算機・機械学習系)が協働して研究するプロセスに惹かれる」といった感想を聴くことができました。
今後もこのような社外の発表や展示を通してCHUGAI DIGITALを知っていただく場を増やしていきたいと思います!