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中外製薬の中核研究拠点「中外ライフサイエンスパーク横浜」を訪問!緑の中に点在する、最先端研究所とは

こんにちは、CHUGAI DIGITALです。革新的な新薬を創出する中外製薬の中核的な研究施設として、「中外ライフサイエンスパーク横浜」がオープンしました。これまで富士御殿場研究所と鎌倉研究所の2拠点にあった創薬研究機能・人財を新しく横浜市戸塚区の研究所に集約するという当社の一大プロジェクト。今回は、約9年前にこのプロジェクトを立上げて以降、着工(2019年8月)から竣工(2022年10月)、本格稼働までを支えてきた社員を訪ね、「緑の中に点在する、最先端研究所」というコンセプトに込めた想い、最先端のICT/デジタルを実装した施設・システム、研究員の新しい働き方についてインタビューしました。

さっそくですが、研究所の目玉「スパイン」を案内してください!

中嶋芳則(研究本部 研究業務推進部新拠点設立準備グループ)

中嶋:はい、どうぞ。私たちが「スパイン」と呼ぶ、英語で背骨を意味する300mの廊下は、広い敷地の中で分節化された各実験棟や居室棟を繋げるメインストリートのような建物です。
今回のプロジェクトでは、約1000名の研究員が働く新設の研究所の中で、研究員同士のコミュニケーションをいかに誘発していくかが大きなテーマでした。これを実現するため生まれたのがスパインです。研究員の日々の動線を意識して偶発的な出会いやコミュニケーションが生じやすいように、通路としての機能だけでなく、様々なタイプの会議室やオープンスペース、ワークラボを併設したデザインになっています。スパインをハブにオフィスである居室棟、実験室が集まる研究棟といった各機能が分棟化されており、研究員やスタッフが各棟、各機能へと動くように設計していますので、このスパインが施設のまさに「目玉」ということになります。

スパインには様々なタイプの会議室やオープンスペースを併設

中嶋:さらに、スパインは廊下としての機能と同時に、施設のエネルギーやモノ(物流)の幹線としての機能を有しています。免震ピットと1F天井部設備フロア(ISS)にはエネルギーの供給ルートを集約、1Fは協力会社やサポートスタッフの諸室を配置し、納品物や廃品の搬出入のサービス動線とし、2Fの研究員の動線と分離することで、施設の物流の基幹とサポート機能の役割を効率的に担っています。ISSは各研究棟の各階にも設置されており、施設保全の担当者は実験室に入ることなく設備メンテナンスが出来るようになっています。

【居室棟】                    【実験棟】
居室棟と実験棟をスパインがつなぐ

試薬自動搬送システムも新たに導入しました。試薬の集中在庫管理機能を伴った管理室、棟間搬送するリニアやコンベア、研究棟各階の受取/返却ステーションから構成され、研究員がPCでオーダーすると、試薬がステーションまで届きスマホに通知が来ます。余った特殊試薬は自動搬送システムを通してステーションに返却することもできます。管理室では秤量サービスも行っているので、試薬の無駄も減らすことができます。いま自動搬送は、多いときは1日200件くらい取り扱いしていますね。

試薬自動搬送システム

環境については、どのような取り組みをしていますか?

世界トップレベルの創薬研究所をつくるプロジェクトでしたから、最新の省エネ機器とセンシング機器を採用し、施設システムのICT/デジタル化を進めました。屋外から侵入する熱を抑制するための居室棟外壁2重ガラス(ダブルスキン)やブラインド自動制御と、室内における人の存在を検知する画像センサや部屋毎のCO2濃度も測定する空調センサなどを採用し、建物全体をモニタリングしながらきめ細やかな室内環境のコントロールを行うことで、省エネルギー化と自然エネルギーを利用した創エネルギー化を図っています。世界標準の環境評価LEED*でゴールドクラス、CASBEE横浜認証制度**で最高位「Sランク」を取得するなど外部からの評価も得ています。

* LEEDとは:非営利団体USGBC(U.S. Green Building Council)が開発、運用し、GBCI (Green Business Certification Inc.)が認証の審査を行っている、ビルト・エンバイロメント(建築や都市の環境)の環境性能評価システムです。
Green Building Japan ホームページ https://www.gbj.or.jp/ 


**CASBEE横浜認証制度とは:建築主の環境への積極的な取組をさらに促進させるため、建築物の計画について、学識経験者による横浜市建築物環境配慮評価認証委員会の評価を踏まえ、環境にやさしい建物として、横浜市が認証するものです。
横浜市ホームページ https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/kenchiku/2022/0110casbee.html 

「スパイン」をハブとする空間設計で、研究員の働き方は変わりましたか?

大木光馬(研究本部 研究業務推進部長)

大木:研究員は各実験棟の実験室とオフィスを行き来しています。とにかく敷地が広いので、この往復も大変です。実験室からちょっとオフィスに戻るとしても何百メートルも歩くわけですから、途中で通るスパインにワークラボのような仕事ができる空間があるのは非常に重要です。
各実験室については、従来の組織やマネジメントの単位で配置することをやめ、創薬テーマや抗体、中分子、低分子といった創薬モダリティに合わせて機能ごとに配置するよう、考え方を変えました。実験室においても組織を越えた交流が生まれます。また、一つひとつの実験室のスペースをより大きくとり、視認性と安全性も高めています。実験を自動化するラボオートメーションやロボティクス技術の開発・導入のため、人とロボットが協働して動きやすい空間にもなっています。何百ものプロジェクトが並行して進む実験業務においてプロジェクト間での研究機器の共有がやりやすく、コストの削減と効率化も進みます。

大型の実験室

中嶋:この研究所はABW(activity based working)の考え方のもと新しい働き方を目指しました。スパインのワークラボや居室棟は、従業員が仕事の内容や目的に合わせて働く場所(環境)を自分で自由に選択できるようにしています。アフターコロナの対応でパーティションを撤去したこともあり、研究員からは「交流が活発になった」という声はもちろん、「よく歩くので、健康的になった」という話も聴きます。
 
実は、富士御殿場と鎌倉の過去の研究所では、実験室の数は多いのですがスペースが狭く、実験台の上に背の高い試薬棚があって周囲の人が見えない、研究員が一か所にこもりやすい環境でした。見晴らしの良い広い実験空間となった今は、いつでも互いの顔が見えるので、ちょっと質問をするなど気軽なコミュニケーションがとりやすくなったようです。

なぜこれまで、富士御殿場と鎌倉の2か所に研究拠点が分かれていたのでしょうか?

大木:2002年にロシュ社との戦略的アライアンスをスタートした頃までさかのぼります。旧日本ロシュが鎌倉研究所(竣工1967年)、ロシュ統合前の中外製薬が富士御殿場(竣工1987年)に研究所を構えていたからです。その後、鎌倉研究所はがん領域を主体として、抗体や低分子による創薬研究、バイオインフォマティクスに基づく創薬研究、化合物ライブラリーのハイスループットスクリーニング等を、富士御殿場研究所はがん以外の領域を主体として、抗体や低分子による創薬研究、発生工学、タンパク質工学等を中心に運用しきたのですが、抗体、中分子による研究活動が活発化するに従い、両研究所間での人財の交流や研究資産の運用面での非効率も生じ、中外製薬にとって研究所の統合は悲願でした。これは研究所新設の総投資額1,718億円(土地430億円、建物設備等1,288億円)という数値にも表れています。
 
私たちは、ご紹介したような施設運用にとどまらず、地域渉外、研究材料の調達・提供やIT基盤整備、さらに人財マネジメントまで研究活動をリソース面で支えるとともに、研究に係るコンプライアンス確保や非臨床研究データの信頼性向上といった研究にとても密接に関わる活動を行っています。研究員が各自の役割を最大限発揮し、研究に専念できる環境を整備・維持することが最大のミッションです。当たり前のようですが、研究内容に合わせて最新の実験装置が必要な時に導入できる、これに必要な環境を素早く整えることなど、表立って見えにくいところをしっかり維持していきます。また、新しい投資やプロジェクトが動いた時に必要な設備・運用体制を提供できるよう、常に情報収集し備えておくことも大切です。

研究所における「中外製薬らしさ」とは?

大木:もともと強みのある抗体医薬の領域だけでなく、新たな創薬モダリティとして掲げた中分子、AI活用など専門領域がより高度になっています。その中で、妥協のない画期的な新薬を生み出していくのが我々だという自信とコミットメントは、ものすごく強いものを持っており、それが中外製薬の研究所の特徴だと思っています。
 
また、私は当社の研究員がよく使う、“研究における自治”というフレーズが気に入っています。自治は自主とは異なり、個々人が主体性を持ちながらも一人ではなくWe、我々でやることを意味します。研究における議論やコンプライアンスを個々人だけでなく組織として作り上げていくこと。オープンイノベーションを進め外部との共創も増やしていくこと。これらは、当社のR&Dにおけるチャレンジングな目標を達成する上で重要な課題だと思っています。 

では最後に、中外ライフサイエンスパーク横浜の未来に向けた期待を教えてください

中嶋:ご紹介した中外ライフサイエンスパーク横浜のコンセプトは、研究員へのアンケートで課題や要望も十分に取り入れてつくったものです。様々な分野の専門家が交流し、イノベーションにつながる世界トップレベルの施設にしたいという、私たちの想いが形になったと実感しています。ここを拠点に、中外製薬の研究開発力をさらに高めていきたいです。

バイオラボ

大木:中外ライフサイエンスパーク横浜は、地域との調和・共生も大きな柱です。「戸塚の中外」、「中外の戸塚」と言われるように、企業として存在感を高めていきたいと思います。取り組みの一つとして、バイオラボがあります。バイオラボは、次世代の子供たちにバイオテクノロジーに興味と親しみを持っていただく場です。まず今年の夏休みから近隣の小中学生を対象とした実験教室を実施していき、将来的にはサイエンスに興味のある高校生を対象に実験を交えてバイオテクノロジーを体験できるプログラムも検討していますので、ぜひ遊びにきてください。将来、ノーベル賞受賞者にライフサイエンス研究の道に歩んだきっかけが中外製薬のバイオラボだったと語ってもらえたら、最高ですね。

研究所ではトップレベルの研究員達がそれぞれの熱い想いを持って議論をしているので、そういう中に入って研究し、自身の専門性を発揮し新しいことにチャレンジしたい方は、ぜひ仲間になってほしいと思います。

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