中外製薬の社員が「宇宙怪人しまりす」をアニメ化した理由
こんにちは、CHUGAI DIGITALです。
突然ですが、皆さんは「宇宙怪人しまりす」というキャラクターをご存知でしょうか?
しまりす君は、京都大学で医療統計学の教授をされている佐藤俊哉先生の著書に登場する、知る人ぞ知る存在です。今年、中外製薬は「宇宙怪人しまりす 医療統計を学ぶ」(全9話)から6話までをアニメ化し、公式YouTubeチャンネルに公開しました。
この企画をリードしたのは、臨床開発本部で統計解析を主務とする大澤志乃。普段は広報活動とは縁遠い社員が、なぜ「宇宙怪人しまりす」のアニメ化に取り組むことになったのか。本人に理由を聞きました。
大澤 志乃
臨床開発本部 バイオメトリクス部統計解析第1G
入社以来、新薬の開発計画や臨床試験の統計解析の業務に従事。大学で薬学を専攻する中で医療統計に興味を持ち、研究室及び社会人修士コースで医療統計を学ぶ。
大人も子どもも楽しく学べる医療統計
大澤:私は入社以来、新薬の開発計画や臨床試験の統計解析の仕事をしています。また、社員向けの医療統計の研修講師や、医療関係者の方を対象に作成する資材のレビューを行ったりもしています。
このように、普段は社内外の専門家を対象に仕事をしているのですが、健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する「ヘルスリテラシー」を身につけることは、より広く一般の方にとっても有益で、なかでも医療統計の基本的な考え方を知ってもらいたいという想いを持っています。
医療統計に関する科学的に正しい情報はインターネット上できちんと公開されていますが、一般の方にはなかなかアクセスするきっかけがないのが実情と思います。
そこで、私自身もお世話になり、専門家や医療関係者からも高く評価されている「宇宙怪人しまりす」をアニメ化し、YouTubeで公開することで、より多くの方に医療統計の考え方に基づく健康情報への向き合い方を楽しく学んでいただけるのではないかと考えました。
企画を臨床開発機能で行われた社内アイディアコンペで提案したところ、実行案件として選出され予算を獲得することができ、原作者の佐藤先生にご連絡したところ、「しまりす君と一緒に、大人も子ども楽しく医療統計を学んでもらいたい」という今回の趣旨に共感いただきました。
「宇宙怪人しまりす」との出会い
大澤:私がはじめて「宇宙怪人しまりす」と出会ったのは医療統計の社会人修士コースに通っているときです。医療統計界隈の方であれば多くの方が一度は読んだことがあるのではと思います。
ストーリーは奇想天外なところがあるのですが、地球征服の野望に燃える宇宙怪人しまりす君と、それを阻止せんとする医療統計家との掛け合いを通じて、医療統計に関するよくある誤解をひとつずつ解き明かしていきます。
また、医療統計について学んでいただく上でハードルになりがちな難しい数式が出てこないのも特徴のひとつで、その点もアニメ化に向いていると思いました。
動画をご覧になっていただくのが一番うれしいですが、どういったことを学べるのか、第1話の内容をかいつまんでご紹介したいと思います。
第1話:「比」「割合」「率」の違い
大澤:アニメの第1話では「比」「割合」「率」の違いを解説します。いずれもよく使われる言葉だと思いますが、これらの定義を曖昧にせずしっかり区別することで、医療や健康に関するデータの見方が変わります。
まずは「割合」と「率」の違いについて。
「割合」は分子が分母に含まれる分数のこと。対して、「率」はある現象がどのくらいの速さで起こるのかを単位時間あたりの速度で表したもの。
具体的に、「死亡割合」と「死亡率」を例に、もう少し詳しく見ていきましょう。
上の例では「死亡割合」は4名中2名が亡くなっているので2名÷4名で1/2(0.5、あるいは50%)になります。
一方「死亡率」は4名の観察時間の合計が3年(これを「3人年」といいます)で、2名が亡くなっているので、2名÷3人年で0.667人/人年、100人年あたりにすると66.7人/100人年になります。
そして、3つ目の「比」は、科学の世界の文脈では分子と分母が別々なものでどちらも相手を含まないもののことを指します。
代表的な「比」の指標として、体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったBMI(肥満度を表す体格指数)があります。他には「性比」があります。例えば10人中男性が4人、女性が6人であれば「性比(男性/女性)」は4人÷6人で2/3です。先ほどの割合にすると分母が変わり、「男性の割合」は4人÷10人で0.4(40%)です。
「割合」「率」「比」の違いをまとめるとこのようになります。
「比」は、分子と分母が別々なものでどちらも相手を含まない分数
「割合」は分子が分母に含まれる分数
「率」はある現象がどのくらいの速さで起こるのかを単位時間あたりの速度で表したもの
「楽しく学ぶ医療統計入門 宇宙怪人しまりす」が医療関係者の皆さまや患者さんとそのご家族はもとより、中学・高校、大学を含む教育現場等でも活用される機会がありましたらうれしいです。
後編:薬を使った、治った、だから効いた、の「3た論法」にご用心