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テックブログ|生成AI活用Chatアプリをアジャイル内製開発!中外製薬のDXを支えるtech工房の取り組み

こんにちは、中外製薬のtech工房リーダー 田畑佑樹です。tech工房とは、中外製薬デジタル戦略推進部でアプリ内製開発を推進するタスクチームであり、今回は生成AIで挑む私たちチームの最新の取り組みをご紹介します。

中外製薬はDX推進の基盤技術の一つに生成AIを位置づけており、tech工房もその可能性に着目し、社員向けの生成AIアプリの内製開発に乗り出しました。2023年から現在まで段階的に開発・リリースを繰り返し、2024年5月に全社リリースした「Chugai AI Assistant」は約7600名の中外社員が利用できる状況となっており、さらに高度な生成AIアプリケーションの開発を現在は行っています。中外製薬tech工房のエンジニア集団が、いかに生成AIの力を最大限に活用しようとしているのか。その熱い挑戦の軌跡をご覧ください!


製薬業界における生成AIの可能性

生成AIとは、AIが人間のデータやルールに基づいて、新しいデータやコンテンツを自動生成する技術で、画像、音声、テキストなど様々な形式のデータを生成できます。製薬業界でも、医学文献や臨床データからの新薬候補や治療法の発見、患者さんの症状に応じた最適な処方や治療計画の提案、社内外の情報を分析して市場動向やビジネス戦略の生成、仮想のパーソナリティを生成した実験シミュレーションでプライバシーリスクを低減するなどの活用が期待されています。
一方で、生成AIによる生成物の品質や信頼性、ブラックボックス性、生成AI開発における専門性の確保など、課題も多く残されています。しかし、これらの課題を乗り越えれば、生成AIは製薬業界のDXを大きく加速し、新たな未来を切り拓くことができるはずです。

中外製薬の生成AI活用の取り組み

中外製薬では生成AIの注力領域を次の3つに分類しています。

1.研究・早期臨床開発領域(インサイト抽出・意思決定支援)
2.社内に眠る未活用データの有効活用
3.業務効率化(単純作業の自動化)

中外製薬の生成AI注力領域

tech工房では、現在は2と3の領域でアプリケーション開発・実装と複数のPoCを進めており、次の段階では1の領域でのアプリケーション内製開発に取り組みたいと考えています。

生成AI活用アプリケーション「Chugai AI Assistant」開発

tech工房が開発し2024年5月に社内リリースした「Chugai AI Assistant」は、大規模言語モデル(LLM)が稼働するシンプルなChatアプリで、業務効率化を目的としています。

本アプリには2つの大きな特徴があります。

1.複数のLLMを切り替えて利用できる
現在は「AWS Bedrock Claude3」「Azure OpenAI GPT-4」「GPT-4o(GPT-4omni)」が利用可能で、近日中にGemini Proも利用可能になります。2024年夏ごろにはMed LM(医学特化モデル)にも対応予定です。

2.AIサービスでの学習Opt-outにより業務情報の漏洩を防止
機密性の高い業務でも、安心して生成AIを活用できます。
2024年5月17日の本番リリースから6月現在まで、平均約3,000人のユニークユーザがいます。最もよく使われるのはClaude3のSonnetで、ピーク時に30分で300kトークンが利用されています。
今回開発にかけた期間は2か月で、製薬企業の社内システムとしては業務レベルの生成AI活用を短期間で実現できた成果だと自負しています。

各モデルの利用状況イメージ
本アプリケーションのアーキテクチャ

アーキテクチャは、当社の標準クラウド基盤であるChugai Cloud Infrastructure(CCI)のAWS上にWebアプリケーションを構築し、バックエンドからAPIを介して各クラウドベンダーの生成AIサービスを呼び出す構成です。
また、開発には様々なのツール・フレームワーク・SaaSを活用しました。

開発に用いたツール・フレームワーク・SaaS

アジャイル開発の実践

Chugai AI Assistantの開発では、初めて社内主導でアジャイル開発手法を導入しました。社員4名と社外開発者5名からなるスクラムチームを結成し、1週間単位のスプリントで計画とレビューを行いながら開発を実践しました。

左上:プロダクトオーナー 田畑、右上:アプリエンジニア/アーキテクト 岡田
左下:インフラエンジニア 山田、右下:アプリエンジニア 尾形

本番リリースまで8回のスプリントを実施しました。当初はスプリントプランニングの見積もり精度が低かったり、本番環境向けのプロセスが不十分だったりと課題もありましたが、4回目のスプリント頃からはスムーズに開発できるようになり、現在では変化に柔軟に対応できる高い開発速度を実現しています。製薬企業の社内でこのようなアジャイル開発を短期間で実践できたことは大きな成果です。今後もアップデートを継続的に行い、より高度で実用的なアプリケーションの提供を目指していきます。

今後のアップデート予定

1.RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術の導入
SharePointやBoxなど社内に散在する様々な情報を統合し、ユーザーに必要な情報を自動生成するRAG機能のv2リリースに向けて技術検証中です。
2.新しいモデル(GPT-4、Gemini Pro等)の順次リリース
クラウドサービスの準備が整い次第、GPT-4やGemini Pro などの新しいモデルを追加していきます。
3.UXの継続的な改善
ユーザーの改善要望に応えて、スプリントの中で細かくリリースしていきます。
4.RAGの精度改善
業務部門と協働してPoCを実施し、チューニングのノウハウを蓄積していき社内体制を強化します。

おわりに

tech工房では、アジャイル開発、新規技術検証、勉強会などを通じて、製薬会社の中のエンジニア集団として活動を拡大してきました。自分たちも社員として使うアプリを開発し、同僚や他部門の社員から生の感想を聞きながら改善を重ねる、事業会社の社内エンジニアならではの経験ができています。

今後も、Chugai AI Assistantの継続的なアップデートと新しい記事の配信を予定しています。ぜひ継続してご覧いただければ幸いです。

執筆:田畑 佑樹(中外製薬デジタル戦略推進部アジャイル開発推進グループ)

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