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中外製薬のサイエンティフィッククラウドCSIを活用したアプリケーション内製体制「tech工房」の挑戦

こんにちは、CHUGAI DIGITALです。当社の全社クラウド基盤・高度解析インフラ構築の事例としてサイエンティフィッククラウド「CSI」について以前、記事で紹介しました。今回は、このCSIを活用したアプリケーション開発の内製体制「tech工房」について、立ち上げの背景、課題と解決方法、今後の展開など、デジタル戦略推進部デジタル基盤グループの田畑佑樹がお話しします。

はじめに

はじめまして、デジタル戦略推進部デジタル基盤グループの田畑佑樹と申します。私は2020年に中外製薬にキャリア入社し、以来、内製でのアプリケーション開発体制の構築、展開を推進しております。中外製薬に入社する前はユーティリティ業界の情報システム子会社でSIerとして十数年勤務しておりました。

「tech工房」立ち上げの背景

中外製薬は「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」実現に向けた3つの基本戦略として「1.デジタル基盤の強化」「2.すべてのバリューチェーン効率化」「3.デジタルを活用した革新的な新薬創出」を掲げています。私が所属しているデジタル基盤グループでは「1.デジタル基盤の強化」を担い、クラウドベースのセキュリティを担保したインフラ層を提供するサービスとして「Chugai Scientific Cloud, CSI」を2020年に構築し、サービスインしました。このCSIを活用し「3.デジタルを活用した革新的な新薬創出」を推進するステージに移行するためには、従来のSoR(Systems of Record)領域だけではなくSoE(System of Engagement)領域のサービス開発が行える体制が必要となります。そこで、社内の内製エンジニア数名が集まり立ち上げたのが、「tech工房」です。

tech工房とは

tech工房はCSIのインフラを活用したアプリケーション内製体制で、いわば社内外のアイデアをサービスにデザインする集団です。新規ビジネスや業務効率化、プロダクト検討などビジネス側のアイデアや、社外から提供される最新のIT/サービスをInputとし、「PoC早期実現/技術の目利き力向上」「RFP時の評価精度向上」「社内(外)アピール/IT人財誘致」を実現するためのOutput創出を目的に、技術調査/実装・評価・発信、ユーザライクなプロダクト提供、アーキテクチャ設計・適用を行っています。

図1 tech工房概要

tech工房ではPoC/PoT(※1)のIT面およびプロトタイプ開発を推進し、社内外に対して様々な技術ノウハウの利用・展開を促進していくために下図のミッション・役割と活動を実施しています。

※1:Proof of Technology

図2 tech工房のミッション・役割と主な活動内容


現在までの取組み紹介

2020年の立ち上げから現在までの、取り組み内容の一部をご紹介します。

デジタルバイオマーカー(dBM)アプリケーション/データ収集プラットフォーム(PF)の内製開発PoC

tech工房で一番初めに取り組んだのが、「デジタルバイオマーカー(dBM)アプリケーション/データ収集プラットフォーム(PF)の開発PoC」です。dBMの開発では、様々なセンサーデバイスから患者さんの生理データをリアルタイムで取得し、「痛み」など主観的な症状の度合を客観的なデータとして定量的に数値化するといった探索的な解析を行います。

解析を行うにあたり必要になるのが、ウェアラブルデバイスやセンサーから得られるデータと、デバイス装着者から実際に起きた様々なイベント(運動、睡眠など)を日誌として記録してもらったデータなどを、取得・蓄積・管理する仕組みとなります。ただ当初、各種デバイス・センサーから取得できる実際のデータやそのデータ取得方法(デバイスベンダーのクラウドWebAPI経由、BLE経由、SDカードなど物理メモリ経由など)や取得すべき日々のイベントの項目について知見やノウハウが揃っておらず、手探りでの調査・検討でした。この検討段階で、フットワーク軽くかつ柔軟にデバイス検証・プロトタイプアプリの開発を行うため、「tech工房」としての対応を実施した、というわけです。

主に以下事項について、立ち上げ当初だったこともあり完全内製で実施しました。

  • 複数のウェアラブルデバイスで取得可能なデータおよびその収集手段の実証、整理

  • Apple ResearchKITを用いたiOSアプリケーション開発

  • CSI上へのデータ収集PF開発

実施にあたっては、ウェアラブルデバイスごとのデータ収集経路の整理と経路ごとにとれるデータの粒度の違いを踏まえ、探索的解析に耐えうるデータ収集・蓄積・管理の仕組みをつくる必要があったこと、ResearchKITの仕様理解に時間がかかったことなど苦労した点もありましたが、全社公募制のPoCとして本プロジェクトを起案した臨床開発本部のメンバーと密にコミュニケーションをとり、彼らが必要とする試験計画(※3)とアプリの仕様を適宜更新、最適化できたため、3ヵ月でのアプリ開発を実現。試験実施におけるシステム障害や使い勝手に関する大きなギャップも発生することなく試験を完遂することができました。

図3 ResearchKITを用いたiOSアプリの画面
図4  データ収集PFアーキテクチャイメージ

この取り組みで蓄積したノウハウを元に、現在dBMアプリ開発ガイドラインを作成、それを活用した新たなアプリ開発にも着手しています。

※3 臨床試験に該当しない社内の探索的な実証実験です

tech工房の探索的アジャイル開発プロセスの整備

前述のdBMアプリ開発では、tech工房側にて想定でプロトタイプアプリを開発、臨床開発本部にレビューしてもらいその内容の反映をAgile的に実施しました。当時は2名で開発を行っており、開発プロセスやプロジェクト管理を行うための指標もなく個人個人のノウハウを活かしながら実施していたのですが、肝心のスコープ定義を行っておらず、開発後期にアプリが出来上がり実際の利用イメージが湧いてきたビジネス側よりあらたな要望(特にUI/UXに関する部分)を想定以上に頂き対応に追われる事態となりました。その反省を生かし限られたリソースでアジャイル開発を行っていくための、tech工房としての実施範囲の定義と、実施内容におけるプロセス・ガイドの整備を実施しました。

図5 tech工房の担当範囲と整備したガイド

こちらは2021年末に整備を行い、一部プロジェクトに試行的に活用を行いました。特にPoC企画・立ち上げ部分に該当するサービスデザインの取り組みを行ったことにより、外部ステークホルダーの巻き込みをスムーズに行えた実績も得ることができたため、今後も本プロセスを元にしたサービス提供を行っていきます。ただ、まずは使ってみないとわからない、という前提のもと60点程度を目指して整備しているため、現在対応中のプロジェクトでの活用を通し、適宜アップデートを行っている最中です。

また、これらプロセス・ガイドを元に効率的にプロジェクトを推進するための管理ツール・DevOpsの仕組みについても構築中であり2022年の春より活用を行っていく予定となっています。こちらも実際のプロジェクトで試使用しながら、適宜ブラッシュアップしていきたいと考えております。

図6 tech工房のプロジェクト管理・DevOps環境イメージ

Webブラウザベース解析環境の構築、展開

tech工房ではアプリ開発だけではなく、ファウンデーション層の提供を目指した技術開発・展開を行っております。

図7 tech工房が考えるファウンデーション層

その第一弾として、AWSのSagemakerStudioを活用したWebブラウザベースの解析環境の構築、展開を試行しております。昨年よりChugaiDigitalAcademyという社内のデジタル人財育成のプロジェクトが開始され、データサイエンティスト向けの社内研修が開催されていたのですが、研修用の解析環境の準備に様々な課題があり、お手軽に受講者に提供可能な解析環境が無いかという相談を受け、下図環境を構築、活用してもらっています。

図8 CDA用SagemakerStudio解析環境

SagemakerStudioはAWS SSOを用いたWebブラウザでの認証か、Management Consoleからの利用が標準で用意されているのですが、AWS SSOは弊社アカウントの制約により使用ができず、研修受講者のIAMを作成してManagement Consoleからアクセスしてもらうのもセキュリティ的に問題がありました。そのため、別途ログイン認証の仕組みを開発し、現在利用をしてもらっています。図8を元に説明しますと、

  1. S3上で公開しているログイン用の認証画面にアクセスし、ID、Passwordを入力

  2. Cognitoにて認証を実施

  3. 認証後に表示される画面からSagemakerStudioのPresignedURL発行処理を実行、URLを返却

  4. 返却されたURLからSagemakerStudioにアクセス

といった処理を実行するようにし、受講者がManagement ConsoleにアクセスせずともSagemakerStudioに接続できるようにしています。

2021年は研修用の環境提供でしたが、2022年夏頃までに業務利用を可能とするセキュリティを担保した環境を用意する予定です。この環境を広く展開し、データサイエンス業務の推進につながればと考えています。

今後の展望

tech工房では引き続きサービスデザインを活用し、アプリだけではなくサービスの提供を見据えた活動を行い、さらに、ファウンデーション層を提供する「サービスファクトリー」の企画・開発に着手してまいります。これらの活動を効率的に推進するため、未来技術の調査、試験利用、評価といった技術開発を継続し、サービスファクトリーへの組み込みを狙ってまいります。

前述したtech工房の探索的アジャイル開発プロセスとサービスファクトリーを活用することで、内製体制の拡大・CHUGAI DIGITALの進化への貢献・さらには外部向けのサービス提供への貢献を狙いつつ、色々新しい技術の調査・開発にもチャレンジをしていきたいと思います。

図9 tech工房ServiceFactoryにむけた取り組みイメージ

また、新しいことや面白いことにチャレンジしましたらnoteにて投稿していきたいと思いますし、他のtech工房のメンバーも記事を搭載予定ですのでお楽しみに!また、本記事でご興味のある内容についてコメント頂けましたら深堀させて頂くかもしれません。

田畑 佑樹(デジタル戦略推進部 デジタル基盤グループ)

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