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ビジネス変革から次のステージへ、キーワードは「Breakthrough」 志済聡子が語る成果と新たな挑戦・展望とは

今回は中外製薬上席執行役員デジタルトランスフォーメーションユニット長として、2019年より当社のDXを牽引してきた志済聡子にインタビューを行いました。
当社のDX戦略は2020年に発表した「Chugai Digital Vision 2030」の実現に向けてDXを3つのフェーズに分け、フェーズ1「人・文化を変える」は2021年に完了、そしてフェーズ2「ビジネスを変える」は2024年に、フェーズ3「社会を変える」は2030年に実現を目指します。ちょうどフェーズ2からフェーズ3への過渡期に当たる今、志済が退任し、新たなリーダーにChugai Digitalが引き継がれます。リーダーとしてチームを牽引してきたこの5年間において、どのような成果を実感しているのか、また今後の組織のあり方やキャリア形成などについて、詳しく話を聞きました。

志済聡子 上席執行役員 デジタルトランスフォーメーションユニット長
(2024年3月31日をもって退任)
北海道大学卒業後外資系IT大手日本IBMに入社。官公庁、ヘルスケア、自治体等の顧客担当営業を経て2006年よりソフトウエア事業担当。2008年には米国NY本社に出向。その後公共部門、通信事業担当執行役員、セキュリティ事業担当役員などを歴任。 2019年に中外製薬執行役員IT統轄部門長に就任。2022年同上席執行役員デジタルトランスフォーメーションユニット長に就任。

2021年でフェーズ1「人・文化を変える」が完了し、2024年はフェーズ2「ビジネスを変える」の最終年。現状をどのようにとらえていますか?

正直なところ、フェーズ2はもう少し時間をかけてもよかったかなという印象がありますが、その一方、確実に成果が上がっている実感もあります。2024年はじめにはPHC*ソリューションユニットが新設され、またインサイドビジネスの事業化も進んでいます。その意味では、「もう少し時間をかけてもよかったかな」という思いと、「ここで一区切りをつけてもいいのではないか」という思いが交錯しています。
*PHC:個別化医療(Personalized Healthcare)

ここまで来るのに最も困難だったことは何ですか?
振り返ってみると、中外製薬におけるDXの進め方はまさに教科書通りだったと思うのです。奇を衒ったことをするわけでもなく、スタンダードな手法でここまで進んできたように思います。もともと中外製薬の社員は、納得感や共感を大事にする傾向が強いのでDXを進める上でも、まずは「何のためにDXが重要なのか」を理解してもらい、その上でいろいろなプログラムを用意し、そこに賛同してくれる人たちを誘導するスタイルを重視しました。このように企業文化に合わせ、DXに興味のある人が無理なく乗れる仕組みづくりをしたことが、成功につながったと感じます。
全社のDXを推進するにあたり、しばしば、「さぞかし難関も多かったのでしょう。一体どうやってくぐり抜けたのですか?」と聞かれるのですが、私自身、それほど困難を感じたことはありませんでした。それは、激しく意見を戦わせるのではなく、むしろ、社員の共感や腹落ち感を大事にしてきたからだと思います。ただし育成プログラムや各種イベントを開催するにも、ただ待っているだけでは社員が参加してくれないので、挑戦心や好奇心を掻き立てるような仕組みを考案することは心がけました。

この5年間を通して、もっとも大きな成果は何だと思いますか?
中外製薬という企業の価値創造に貢献できたことです。当初は社員から「DXは本当に必要なのか?」「価値があるのか?」といった不安の声が聞かれることもありました。しかし社員自身がその価値を実感するよりも早く、社会が高く評価してくれました。それにより、「うちのDXはすごい」「先進的だ」という意識が社内で醸成されるようになりました。
その一方、世の中に対しても、「創薬を生業とする製薬会社」というだけではない、「デジタル戦略の中外製薬」という側面も広くアピールできるようになりました。それにより、会社の内外問わず企業価値が大きく高まったと感じています。
優秀なデジタル人財が多く集まるようになったのも、そのためです。社内で新たな化学反応が起こり、次なる文化が生まれていく。まさに、企業価値の向上と人財の獲得は相関関係にあると実感しています。

中外製薬に対する想いを熱心に語る

これまでのデジタル活動が社内の経営層に対し、どのような影響を与えてきたと思いますか?
はじめはDXに関してあまり興味を持ってもらえなかったり、受け身な姿勢を取られたりしましたが、成果が上がるにつれてどんどん参加意識が高まり、経営層におけるデジタルリテラシーが格段に向上したと感じます。それには、DXが当社の成長戦略「TOP I 2030」のキードライバーの1つになったことも大きく関わっています。各事業本部やユニットが取り組み課題を設定する際には、必ずデジタルに関する項目が盛り込まれるようになり、各部門の翌年度計画の会議やそのレビューのなかでもデジタルについて語られる機会が増えたので、必然的にDXやITに関するリテラシーが高まりました。そういう意味では、中外製薬では経営とDXが一体化していると思います。この点がおそらく、他社が推進しているDXとの大きな違いであり、デジタルを「成長戦略遂行のキードライバー」として明確に位置付けていくところに、中外製薬の社風が表れていると思います。

データを活用した経営層の意思決定も増えているのでしょうか?
それは今後の課題だと認識しています。やはり経営は生ものなので、長期計画を立てる上では現状を分析しつつ、「この投資は本当に必要なのか」「もっと最適化できるのではないか」など検討しなければなりません。そういう場面での判断材料としてデータは非常に有効ですし、そのためには、常にデータを「使える」状態にしておく必要があります。いつでも使えて、意味のあるデータでなければ分析もできませんし、分析の結果も期待できません。
その“意味あるデータ”を作るために不可欠なのが、デジタル人財です。データ統合が進んだことでさまざまなデータを利活用できるようになったということもあり、今後は優秀なデジタル人財を更に獲得・育成し、データを意思決定につなげていことを更に進めていかなければならないと思います。

フェーズ3においては社内だけでなく、社外との協業も必要だと思います。
2023年、創薬スタートアップ企業等への投資を行うことを目的にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立しました(中外ベンチャーファンド、CVF)。これは中外製薬史上、最大のチャレンジの1つだと思います。またPHCソリューションユニットの新設も、これまではいろいろな部署がそれぞれに検討していた個別化医療を集約し、「しっかり組織立ててやっていこう」という意識の表れでした。これは「中外DX」というひとつの雛形が他の事業に対し、ベストプラクティスとして機能し始めたということじゃないでしょうか。今後はこれらの業務に関連したナレッジを持っている人にもっと参画して欲しいと思いますし、そのためには、社外の人たちに「おもしろそう」と興味を持ってもらえるような組織づくりをしていかなければいけないと思います。

今後、中外がソートリーダーとしてリーダーシップを発揮するには何が必要だと思いますか?

ソートリーダーとは、企業が何か新しいことをしようとしたとき、「まずは中外製薬に相談してみよう」と思ってもらえる存在になることだと思います。たとえばWeb3.0に関しても、リアルワールドデータに関しても、誰よりも先に発信し、「自分たちはこう評価する」という意向を明確に示すことが必要です。それは「TOP I 2030」で示されたリーダー像にも共通しています。これまで抗体医薬の領域では、中外はソートリーダーとしてリーダーシップを発揮していますが、その他の領域でももっとそうした存在になることを目指すべきではないかと思います。今後はDXだけでなく、さまざまな領域において、「中外製薬は常に先を見ているね」と認識してもらえる存在になる必要がありますし、DXはもちろんのこと、中外の柱は創薬なのでそのビジョンをさらに全面に打ち出してほしいです。

インタビュー中も笑い声を響かせて

2024年4月よりDXユニット長が交代します

2019年に入社して以降、5年間かけて「1サイクルをまわしたな」という実感があります。もちろんやり残していることはたくさんありますが、中外製薬におけるDX基盤の確立というステージには到達した実感があります。さらに上のステージを目指すために必要なことは、組織のリーダーが自分の後継者を考えること。特に現在は、中外製薬のデジタル施策が注目を集めています。だからこそリーダーは交代すべきであり、新しいリーダーは前任にない能力やスキルを持った人、そして、自分を超える人でなければならないと考えています。
新しくDXユニット長に就任する鈴木貴雄さんは私以上にポジティブ。また、私はこれまでのバックグラウンドから「営業+テクノロジー」が強みでしたが、鈴木さんはもっと「テクノロジー寄りの実業」タイプ。私にはない感性と能力を生かしながら、新たな付加価値をどんどん積み上げていって欲しいと思います。
私はリーダーの交代は非常に重要だと考えていて、リーダーが変わることで組織がリフレッシュし、新たな気持ちで次へ向かっていけるようになります。組織のメンバーにとっていいリーダーの条件とは、「次なるチャレンジを与えてくれる人」。だから今回のユニット長交代に際し、社員には新たなリーダーに期待して、存分に楽しんでほしい。そして一度自分自身をリセットして、新リーダーの力量を確かめながら、自分はそこにどうアジャストしていくか、また、そのプロセスにおいてどう成長していくかを考えてほしいです。

リーダーシップチェンジにより、組織として進化を重ねていくということですね

そうです。もちろん前任のリーダーにも「辞めたあと、どうするのか?」という課題があり、「それじゃあ、孫の面倒でも見ます」ということにはなりません(笑)。そうではなく、常に辞める前から自分自身のネクストキャリアを描いておかなければならない。私が中外製薬の執行役員を務めつつ社外取締役の責務を請け負っていたのも、「中外製薬の私」以外の領域でチャレンジをしたかったから。もう1サイクル、私自身もネジを巻いていくには、どうしたらいいかなと、ずっと考えていました。
人生100年時代。キャリアを通じて人生を豊かにする生き方をこれからも追求したいと思いますし、皆さんにもぜひ考えて欲しいと思います。

インタビュア
村上雅生子(デジタル戦略推進部)

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