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「自動化」が主役になるとRPA推進が阻まれるのはなぜか? 過去の教訓を活かすことで成し遂げた、CHUGAI RPAの飛躍

こんにちは。CHUGAI DIGITALです。

RPAは通常「Robotic Process Automation(ロボットによる業務自動化)」の略ですが、中外製薬においてはロボットを開発する以前にいまの業務手順そのものを見直すことを重視し「Reconsider Productive Approach(生産的アプローチの再考)」という言葉に置き換えています。

前回のCHUGAI RPA推進の全体像に続き、今回はより具体的な取り組みについて紹介します。 

佐藤 真澄(写真左)
DXユニット ITソリューション部 コーポレートアプリケーショングループ
2007年中外製薬にMR(医薬情報担当者)として入社。その後、営業本部、メディカルアフェアーズ本部でバックオフィス業務を経験し、2020年よりITソリューション部で全社RPA推進プロジェクトリーダーとして従事。

結城 美保(写真中央)
臨床開発本部 バイオメトリクス部 統計プログラミンググループ
2018年中外製薬に入社。2019年より臨床開発本部RPA推進リーダーとして従事。主業務は承認申請関連の解析実施や当局への申請電子データ提出等。

CHUGAI RPA飛躍の一年

佐藤:ITソリューション部で全社RPA推進の事務局を担当している佐藤です。

2021年に全社を挙げて「CHUGAI RPA推進活動計画書」を作成した結果、RPA案件数が前年と比べて5倍に増えました。

案件数が短期間で急増したため正直大変でしたが、「事務局に相談してよかった」と言われることがすごく増えました。最近では「担当ではないと思いつつ、業務効率化がしたいんです」という相談を受けることもあります。話を聞き、その結果他部署につなぐこともありますが、それでも「相談してよかった」と言ってもらえるのがうれしいです。

2021年がCHUGAI RPAにとって飛躍の年となったのも、いくつかの部門が先進的な取り組みを通じてインパクトのある成果を挙げていたことが大きいと思います。結城さんが推進をリードしている臨床開発本部もそのひとつです。 

「自動化」が主役になるとRPA推進が阻まれる

結城:臨床開発本部のなかでRPA活動の推進を担当している結城です。

臨床開発本部がRPA推進活動を本格的に始めたのは2019年。付加価値の高い業務に時間と費用を集中させるため、業務見直し、業務プロセス再構築のきっかけにすることを目的としています。

実は、 Robotic Process Automation全社展開活動が行われた前年が私たち臨床開発本部にとって「教訓の年」でした。

本部内で自動化したい業務を募集したところ200件近くのアイデアが集まったのですが、当時はRobotic Process Automation でできること/できないことの区別がついていない状態。Robotic Process Automation とAIの違いもきちんと理解できていませんでした。

「自動化は目的ではなく手段」「既存の業務プロセスをそのまま自動化するのでなく、まずは業務プロセスを見直すこと、業務整理することが重要」ということはよく言われることですが、私たちはそのことを身をもって経験しました。

そして、2019年以降はその教訓を活かすことにしました。

「自動化したい業務はありませんか?」と聞くのではなく、「困っている業務をリスト化しませんか? その解決策がロボット化ではないかもしれませんが、もしもその業務が困らなくなったら、と考えてみましょう」と問いかけるようにしました。

また、業務プロセスを変えるためにも、業務をよく知る担当者を巻き込む必要があると考え、臨床開発本部ではRPA業務担当者という役割をつくり、統括に1名以上アサインしてもらいました。RPA業務担当者は、各統括での活動の中心を担います。RPAかつ業務のことをよく知っている人が自分の身近なところにいるとまわりの社員も相談しやすくなりますので。

そして、早い段階から成果を出すことにもこだわりました。他の部門が開発し、すでに稼働しているロボットを部分的にカスタマイズするのもその一例です。 RPAプロジェクトメンバーがUiPath社内認定資格も取得し自部門内での開発を加速させ、その成果を、その業務を行っている部・グループにのみ展開するのではなく、本部全体の成功体験として広く共有していくことで、よいサイクルがまわり始めました。

2021年はUiPath Studio以外のツールも導入され、UiPathも資格がなくとも利用できるようになり、作業担当者による自走開発「自分の業務は自分で効率化する」を推し進めることでき、自走開発案件数が進展しました。

一方で大切にしているのが苦労体験の共有です。安定稼働までは苦労の連続です。本稼働後ロボットが思っていた以上に止まる、想定外のシステムアップデートが発生する、変更した業務プロセスの周知が必要であるなど苦労もあります。

自動化が実現した業務においても、開発完了で終わりではなく、RPA推進には、変更した業務プロセス・運用手順の職場内周知から始まり、継続して業務効率化に対する意識を持ち続けることが必要不可欠です。

安定稼働から一定期間たった時点で実際の効果を確認するためのヒアリングもしています。安定稼働して業務効率化を実感するときがすごくうれしい瞬間です。

RPA人財の社内育成

佐藤:臨床開発本部のように削減時間数の大きな「大玉案件」の自動化が完了すると、今度は社員一人ひとりにとってより身近な業務の自動化ニーズが高まっていきます。

そこで、自分自身で業務を自動化できる「市民開発者」を社内育成する体制が必要と考え、CHUGAI RPA Squareという教育プログラムを始めました。

1クール3カ月で、6-8講座を1年に3回開催しています。毎週1時間ずつの講義で、個々のツールの使い方を学ぶ講座もありますが、そもそも自動化に向いている業務は何かという業務発掘や、業務標準化を学ぶ講座をそろえています。

市民開発を促すためにRPA業務選定ガイドラインの改定も行い、RPA案件として扱う年間削減時間数の下限(200時間以上)を撤廃しました。RPA活用の機会が増え、ユーザーからも歓迎されました。 

Robotic Process Automation に向く業務の見極め方

佐藤:Robotic Process Automation に向く業務を考えるキーワードは「定型化されている」「繰り返される」「ボリュームがある」の3つです。このうち注意が必要なのが「ボリュームがある」の考え方です。

例えば、何かを転記する作業が毎週あって、それを半日かけてやっているとすると、これは明らかに自動化に向いていますが、これぐらい分かりやすい業務はすでに自動化が済んでしまっていることが多いです。逆に、ルーティンで行っている毎日5分程度の作業だとしても、同じことを中外グループ全体(約7,000人)でやっているとすると相当にボリュームがあることになります。

中外製薬ではRPA IDEA BOXというシステムでRPA案件を一元管理・可視化しています。このシステムに関わる人数、頻度、平均処理時間、平均アクティビティ量など10数項目のプロセスを入力していくとアルゴリズムによって年間あたりの削減時間が自動算出される仕組みです。

また、プロセスマイニングの活用も準備中です。これは既存の情報システムのイベントログをモニタリング、分析することで、人ではなくシステムの観点から業務プロセスのどの段階で一番スタックしているかを可視化し、RPA化を自動的に提案してくれる仕組みです。

中外製薬が導入している自動化ツール

佐藤:最後に、ご参考として中外製薬が導入しているツールを紹介したいと思います。

当社ではUiPath Studio、UiPath StudioX、Microsoft Power Automate、ExcelマクロのxoBlos(ゾブロス)を導入しています。また、KIBITなどのAIツールも活用しています。市民開発のためのツールとしては、ノーコードで使用できるUiPath StudioXを2021年から展開しはじめました。

ツールの導入についてかなり積極的な会社だと思います。使用するツールを統一したほうがよいか、いろいろな種類のものを使えるようにしたほうがよいかは議論あるところです。

結城:いろいろな選択肢があることで、ひとつのツールでは実現できない場合も、そこで話が終わらずに済みます。

私たちが本当に成し遂げたいのは業務効率化なので、ツールがボトルネックになりにくいことはありがたいですね。また、ツールは開発ができて終わりでなく、維持するのにもコストがかかりますので、部門としても費用対効果を意識しながら選択する必要があると考えています。


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