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製薬・ヘルスケアのR&D イノベーション創発に向けて 業界リーダーが議論|CHUGAI INNOVATION DAY 2022 より

こんにちは、CHUGAI DIGITALです。年に一度、中外製薬主催のDXイベントとして開催してきたオンラインカンファレンス「CHUGAI DIGITAL DAY」ですが、今年は「CHUGAI INNOVATION DAY 2022」として「R&D Innovation」「Digital Innovation」にテーマを拡大し、11月14-15日の2日間にわたり開催しました。企業、アカデミア、行政のリーダーが一堂に会し、ヘルスケア領域のR&D、DX、オープンイノベーションにおける取り組みやトレンドを紹介する、「CHUGAI INNOVATION DAY 2022」。今回のnoteでは「R&D Innovation」をテーマとした3セッションの講演とディスカッションの内容を振り返ります。

「Digital Innovation」をテーマとした3セッションの報告記事はこちら

R&D Innovation|Session1_異業種連携による個別化医療の未来

最初のセッションは「異業種連携による個別化医療の未来」がテーマ。製薬業界の枠を超えて、生活者に最適なものを提案する個別化医療の取り組みを紹介し、あるべき未来に向けた議論しました。

大矢氏 ご講演

まず最初は、大矢 直樹氏(花王株式会社 生物科学研究所 グループリーダー)より「皮脂RNAを活用した美容分野のパーソナライゼーション」についてご講演いただきました。

大矢氏:
あぶら取りフィルムで皮脂を簡便に採取し、そこから抽出したRNAを次世代シーケンサーで網羅的に解析する技術を開発しました。なぜmRNAが皮脂中に存在するのか疑問でしたが、実験の結果、皮脂成分がRNAの分解を阻害していること、さらには、皮脂RNAには、皮脂腺以外にも表皮や汗腺などの組織の発現情報も含んでいることがわかりました。我々はこの独自技術を、美容はもちろん、健康や医療の分野において、採取の自由度が高いモニタリングに活用し、様々な分野でパーソナライズ化を促進できるよう、研究開発に取り組んでいます。

植松先生 ご講演

二人目のスピーカー、植松 智先生(大阪公立大学大学院医学研究科・医学部 ゲノム免疫学/東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターメタゲノム医学分野 教授/特任教授)には「腸管メタゲノミクス〜DXから橋渡し研究、そして全分野への応用〜」というタイトルでご講演いただきました。
 
植松先生:
腸内細菌のメタゲノム解析結果から、未病の発見や疾病診断を行うAIの開発に取り組んでいます。腸内細菌に特異的に感染するファージゲノムのデータベース構築によって、疾患の直接原因となるpathobiontを制御できる次世代ファージ療法の開発も可能となりました。メタゲノム研究は医療のみならず、食料や化学品、環境といった分野への水平展開が期待されます。メタゲノムクリニシャン育成にも力を入れています。

村下氏 ご講演

このセッション最後のスピーカーは、村下 君孝氏(株式会社デンソーテン 新事業推進本部イノベーション創出センター プロジェクトリーダー)で、講演のテーマは「人の内面を識る 感情センシング技術とそのビジネス展望」です。
 
村下氏:
ICTの進展は人間の生活を豊かにすることが期待されています。それには人の外面だけではなく、内面つまり感情を理解し、状況に応じたサービスを提供することが重要です。デンソーテンは感情センシング技術の開発に取り組んでいます。すでに世の中には、代表的なサービスとして、脳波で感情を見える化しマーケティングに用いたり、脈波で緊張度や集中度を見える化し業務効率化や教育の分野に活用するアプリケーションがあります。ドライバーの感情センシングを行い運転支援を行うことも期待されます。

パネルディスカッション

石井暢也(中外製薬株式会社 プロジェクト・ライフサイクルマネジメントユニット 科学技術情報部長)をモデレーターに、パネルディスカッションを行いました。実装に向けた課題について、植松先生は「スマートトイレの実装には、10年はかかるのではないか、また現状は分析に大掛かりな機材が必要となっていることも課題である」と指摘。また、大矢氏は「適切な採取が重要であり、そのためのユーザビリティの向上が必要である」と話がありました。村下氏も、感情センシングにおいて非接触でデータを取得することの重要性を指摘していたように、個別化医療においては、「日常で」「非侵襲で」「連続して」データをためることが、重要なファクターであることが、ゲストスピーカー三者の講演に共通項として見えてきました。また、皮膚・腸・感情と異なるモニタリング技術の異業種連携によって、より包括的な推定・診断が実現される可能性についても期待感が高まるセッションでした。

R&D Innovation|Session2_革新的な新薬の創出へ、多様化する創薬モダリティ 

続いてのセッションのテーマは「革新的な新薬の創出へ、多様化する創薬モダリティ」。様々な疾患、標的分子への適用を可能とする新たな創薬モダリティ開発の取り組みについて紹介します。

井川 講演

最初のスピーカーである井川 智之(中外製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ本部長)からは「中外製薬におけるモダリティ技術を活用した創薬」について紹介がありました。モデレーターでもある井川は、まず創薬モダリティの多様化が進んでいる現状について総括し、モデルナ社(鈴木氏)は遺伝子を、Modalis社(森田氏)はゲノム編集を、中外製薬は抗体・中分子・低分子といったモダリティを守備範囲にしていると整理。その上で、中外製薬が注力する抗体医薬の新しい可能性について取り組みを紹介しました。

鈴木氏 ご講演

セッション2二人目のスピーカーは、鈴木 蘭美氏(モデルナ・ジャパン株式会社 代表取締役社長)で、講演タイトルは「モデルナのmRNAパイプライン:数百万人が罹患する疾患から、数十人が苦しむ希少疾患、そして各個人に向けてパーソナライズされた医薬品まで」です。
 
鈴木氏:
mRNAは情報分子であると考えており、様々なタイプの細胞にその情報を届けるための新しい方法の開発に投資しています。それぞれの方法が新しいアプリケーションとなり、それをモデルナではモダリティと呼んでいます。希少疾患や個別化がんワクチンへの適用が期待され、個別化がんワクチンの場合、数週間で生検から投与まで完了できる可能性があり、がん治療のゲームチェンジャーになりえると考えています。

森田氏 ご講演 

森田氏:
海外では、続々と遺伝子治療薬が承認されています。10,000あると言われるヒトの疾患の中で、約7,000は希少疾患にあたり、その80%が遺伝性疾患と重なります。遺伝子疾患の95%は現在治療法がなく、その患者数は4億人に上ります。希少疾患への治療薬を開発するためには、水平展開可能なローコストな開発アプローチが必要不可欠です。Modalis Therapeuticsでは、CRISPRを用いた独自の遺伝子制御技術に基づき、新しい知見や技術をインテグレートして画期的な治療薬を開発しています。

 パネルディスカッション

モダリティが多様化している背景について、井川の「工学的発想がモダリティを多様化している」というコメントに対して、同じく工学的な視点で創薬に取り組む森田氏は「使える要素技術が成熟してきた」ことが背景にあると補足しました。製造コストに関する質問に対して、鈴木氏は「難病の場合は症例が少ないため、旧来の統計的なサイエンスは難しい。そのため、国際化による解決が必要だ」と指摘。また、森田氏からは「希少疾患においてフルパッケージの臨床試験が必要だろうか」と問題提起がされました。またDXの活用について、鈴木氏は「Digitalize Everything、一切紙に書くことはなしにしている。その結果、部署によらず情報にアクセスでき、効率化と新たな発想に結びついている」とモデルナ社の企業風土と業務効率化ついて興味深いコメントもありました。創薬のあり方が、それを支える技術と疾患に対する概念の転換にともなって大きな変化点を迎えていると感じさせるセッションでした。

R&D Innovation|Session3 日本発のヘルスケアエコシステム、持続的な共創に向けて

「日本発のヘルスケアエコシステム、持続的な共創に向けて」では、高橋 俊一氏(一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)事務局長)をモデレーターに迎えました。高橋氏からは冒頭、「単に集まるだけでなく、集まる人がそれぞれの役割を果たすためにどうすべきか」とエコシステム形成における重要な論点が明示されました。

小栁氏 ご講演 

小栁 智義氏(京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構 ビジネスディベロップメント室 室長/特定教授)「SPARKが実現する Translational Scientists Without Borders」をテーマにご講演いただきました。
 
小栁氏:
現在、承認薬の70%がアカデミアやスタートアップから生まれています。そこで重要となるのが、スタートアップから大企業への技術移転です。私はスタンフォード大学でトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)のトレーニングプログラムをSPARKと名付け実施しました。日本のスタートアップに足りないのは、リスク評価であると考えています。資金面において、官民一体となったグランドデザインが必要であるとともに、新薬開発の鍵となる情報を共有する基盤の整備が求められています。
 

吉川氏 ご講演

二人目のスピーカーは、吉川 真由氏(AN Ventures Founding Partner)「海外VCとのコラボレーションによる日本のヘルスケアエコシステム活性化に向けた取り組み」と題し、VCの立場からご講演をいただきました。
 
吉川氏:
AN Venturesはバイオ創薬に特化したVCです。日本は言語・文化の壁があるため、米国の投資家が参入しにくい現状ですが、日本のサイエンスイノベーションは依然として素晴らしいものが多数存在しています。国内におけるスタートアップ化の課題として、資金不足や人材不足が挙げられます。そこで、元となるサイエンスイノベーションは日本国内にフォーカスしながら、価値の最大化は米国の豊かな人材や資金、市場を活用し、グローバルのトップVCと協力して投資をします。 

嶋田 講演

三人目最後のスピーカーは、シンガポールより登壇した嶋田 英輝(CHUGAI PHARMABODY RESEARCH PTE. LTD. CEO/ Research Head)です。「シンガポールサイエンスエコシステムからの創薬」についてご紹介いただきました。

嶋田:
シンガポールは、政府の産業支援が厚く、BIOPOLISと呼ばれるバイオ関連企業が集積した地区があるため、ネットワークが密であることが魅力です。また、シンガポール国立大学など世界トップレベルの研究機関から優秀な人材も得られます。そうしたシンガポールのサイエンスエコシステムの中で、Chugai Pharmabody Research Pte. Ltd. (CPR) は、唯一の初期創薬を行う企業であることや、マネジメント人材のトレーニングを行い人材創出をするという役割をになっています。

パネルディスカッション

日本発のヘルスケアエコシステムというテーマについて、小栁氏は「まず、All Japanはやめてほしい。多様性を狭め、競争力を落とす結果になる」とコメント。嶋田は「シンガポールでは入社してから3年くらいで次のキャリアを考えるカルチャーがそもそもある」と人財の多様性と流動性の重要性が示されました。ピッチなどアントレプレナー教育が増えてきた状況については、吉川氏から「バイオ創薬の分野では、最初からモダリティや疾患の開発に適切な市場や人材を把握して、グローバルに戦略を立てる必要がある」という指摘が、小栁氏は「プログラムの質は千差万別。受講する側も吟味をしつつ、2つ以上を受講してネットワークを拡大することも成功の秘訣だ」と別の視点が示されました。スタートアップのメンター人財について議論が及ぶと、嶋田は「メンターには、ビジネスの可能性や安全性など研究者が持ちにくい視点が必要」と述べ、小栁氏は「メンターはSPARK開始当時は企業OB中心だったが、最近では企業の投資部門(CVC)に所属する現役社員も参加するようになってきており、製薬企業の最新情報がアカデミアに流入するようになってきている。」と事例を示しました。「スタートアップが早期からメンターと密にコミュニケーションを取ることは良いこと。しかし、シーズの早い段階で切り売りしてしまうことになると、もったいないケースもあるのでよく検討する必要がある」といった指摘が吉川氏からはなされました。高橋氏は「国内と海外、自社と他社などの垣根を超えたオープンイノベーションが必要だが、人材流動性が低いのではないか。視聴者のみなさんもこうしたコミュニティに参加して、日本のイノベーションを世界につなげる活動ができたらよい」とコメントし、セッション3は終了となりました。

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