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イベントレポ前編:「CHUGAI DIGITAL DAY 2021|ヘルスケアの未来を創る」

こんにちは、CHUGAI DIGITALです。2021年11月18日(木)に開催したオンラインカンファレンス「CHUGAI DIGITAL DAY 2021」を、前後編に分けてレポートします。 (後編はこちら

CHUGAI DIGITAL DAYは、「ヘルスケア×デジタル」の未来を見据え、イノベーションのヒントを探る機会を提供するオンラインカンファレンスです。各界で活躍されるトップサイエンティストやビジネスリーダーを講師に迎え「ヘルスケア×デジタル」の現状や課題、トレンドなどを紹介しています。

2回目の開催となる本年は、「生命・医療の概念を革新する、AI・人工知能」「誰ひとり取り残さない未来へ、人の拡張で挑戦する」「『ヘルスケア×デジタル』が貢献する、未来のWell-being」「ビジネスで社会課題解決へ、データでつながるマチ・モノ・ヒト」という4つのセッションを構成し、ゲストスピーカーによるご講演やクロストークを実施しました。ヘルスケア分野のDXやAI活用に興味のある社会人・学生をはじめとする約1,700名の事前申込があり、当日は多くの方にご視聴いただきました。また、リアルタイムで視聴者の質問・コメントを受付けながら、ディスカッションを進めました。お申し込み、そしてご参加いただいた皆さま、ありがとうございました!

ではここから、講演内容を簡単にご紹介しつつ、当日の様子を振り返ります。

Session1「生命・医療の概念を革新する、AI・人工知能」

最初のセッションでは、日本のメディカルAI分野をリードする浜本隆二先生(国立がん研究センター研究所 医療AI研究開発分野・分野長/一般社団法人日本メディカルAI学会・代表理事)から「メディカルAIの概要と展望」というタイトルでご講演いただきました。AI産業界のユニコーン企業を率いる岡野原大輔氏(株式会社Preferred Networks代表取締役 最高執行責任者)からは、「深層学習の医療分野への応用」というタイトルでご講演いただきました。

浜本先生ご講演

浜本先生:
医療現場におけるAIは、日本及び世界でも実臨床分野へと進み、医療行為にAIが「使えるかどうか」ではなく「どう使うか」を考える段階へ移行しています。AIと医療行為との関わり方については、「診断を行う主体はあくまでも医師」なのか「医療AIの診断責任は開発者が負う」べきなのかという論点があり、法整備や薬事規制などの議論も各国で必要となっています。

2016年に立ち上げた「AIを活用した統合的ながん医療システム開発プロジェクト」(CREST事業)をはじめ、AIの実臨床での応用を目指すプロジェクトで研究機関や民間企業と連携しています。質の高い豊富な診療情報を含む統合データベースの構築も重要です。

国立がん研究センター研究所で推進するプロジェクトの1つに、内視鏡用AI診断医療機器があります。内視鏡医とAIが一体となり検査を行うことで、診断の見落としを無くし、人間が認識困難な病変も検出できるよう診断精度の向上を目指し開発研究を進めています。

急速に社会実装が進みつつあるメディカルAIですが、機械学習のオーバーフィッティング(過学習)や解析のブラックボックス化、医療用画像における施設間の齟齬などの課題が残されています。AIと人間が共に学びながら成長して、患者さんのために努力し続ける姿勢が重要です。

岡野原氏ご講演

岡野原氏:
「データは21世紀の石油」とも言われるほど、今や情報が持つ価値は多くの人々に還元されつつあります。しかし現実世界を相手にすると、データの取得に時間がかかったり、質が偏っていたり、そもそもデータ取得が難しいこともあります。そこで不可欠になるのがシミュレーションです。データ自身を生み出すシミュレーションを用いることで、例えばCGなど大量のデータを自動生成して深層学習で解析できます。Preferred Networksでも原子スケールで材料の挙動を再現するシミュレータMatlantisを開発し、10数社の企業に提供しています。

ウェルネス・ヘルスケア領域における課題の1つはデータ取得の難しさです。ここにもAIが活用でき、高価なデバイスや侵襲性のある検査など煩雑な手間無しに、毎日の生活で何気なくデータがとれるAI技術の開発を目指しています。具体的な事例として、あぶらとりフィルムからとれる皮脂から疾患情報を取得する研究開発などを行っています。

AIは医療画像や創薬への応用も期待されます。胸部X線画像からの肺がん検出、中外製薬と取り組むAI創薬、実験操作の自動化ロボットなどさまざまなプロジェクトを進めています。

Session2「誰ひとり取り残さない未来へ、人の拡張で挑戦する」

このテーマでは、「人々がより良く生きる未来を実現するための技術」がキーワードとなりました。南澤孝太先生(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)安藤健氏(パナソニック株式会社ロボティクス推進室室長)によるご講演、中西義人(中外製薬株式会社デジタル戦略推進部長)からの話題提供の後、クロストークを展開しました。

南澤先生ご講演

身体の様々な機能を共有、拡張する「身体性メディア」研究を行う南澤先生から、「Cybernetic being - 身体とテクノロジーが繋がり人の可能性を拡張できる未来へ」というタイトルでご講演いただきました。

南澤先生:
これまでは映像(視覚)と音声(聴覚)において可能であった遠隔地との情報や体験の共有は、今や、触れ心地(触覚)でも可能な時代になっています。目と耳だけで行ってきたコミュニケーションに肌感覚を追加することで「向こう側を実感する」ことを可能にするのが身体性メディア研究です。研究活動の例として、個人の体格や体力、動かしやすさといった違いを超えて、誰でも楽しめるスポーツを創り出すことを目的として設立された「超人スポーツ協会」があります。

 身体性の拡張技術は、メガネをかけるのと同様に「自分の欲しい体の機能」を手に入れることに他なりません。「しっぽ」のように人間がもともと持ち合わせない新たな体をデザインして自在に動かすことも可能になりますし、デジタル空間上で自分の身体を拡張することも可能です。デジタル空間上にアバター(分身)を持つ人は昨今増えていますが、さらに実空間で自分とシンクロして動く「テレイグジスタンスアバター」についての研究も進んでおり、スタートアップも誕生しています。

人は程度の差こそあれ様々な障碍を抱える可能性を持ちますが、この研究の先にはそれを克服する「新しい体」がある未来社会が待ち構えています。

安藤氏ご講演

企業においてロボティクス研究開発を行なってきた安藤氏からは、「人も社会もWell-beingな世界を目指したテクノロジーの研究開発」というタイトルでご講演いただきました。

安藤氏:
国のGDPが増大しても国民の幸福を示す指数は向上するとは限りません。これまでの社会は生産性の向上や合理性の追求を求めてきましたが、もしかすると本来なら人間が「自分でしたかったこと」まで奪っていたからなのかもしれません。ロボットがすること(Automation)と、人がすること(Augmentation)のバランスを取り、経済合理性と個人のQoL(Quality of Life)を両立してこそWell-beingな世界が実現するのではないかと考えています。

 身体性・精神性・社会性の良い状態が揃って初めて実現する「well-beingな状態」のために、身体性にはメカトロ技術、精神性と社会性にはロボティクス技術を用いたサポートを行うべく、2019年に設立したのが「Aug Lab」です。開発者だけでなく、研究者やアーティストなど各分野で最新の知見を持った共同研究パートナーと一緒にwell-beingを探索するプロジェクトを進めています。例えば人間の感性や感覚という抽象的なテーマを掘り下げて構造化する「感性価値の概念整理」や、well-being度を推定する技術の開発、さらにはスタッフからのアイデアをラピッドプロトタイピングしてみるなど、まず手を動かしながらより良い仕組みや生き方の実践を探っています。

一人ではなくみんなで考えていけるかが大事。そんな取り組みを今後も推進したいです。

クロストーク(南澤先生・安藤氏・中西)

イベント全体の進行を務める中外製薬の中西から「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」(参考:https://www.chugai-pharm.co.jp/profile/digital/vision.html)の概要とデジタルバイオマーカーの取組みを紹介した後、登壇された二人とのクロストークを行いました。

「2030年のWell-beingの未来予測」というテーマでは、「個人のwellだけではなく、周囲まで含んだwellが大事になる」と安藤氏が話せば、南澤先生からは「健康は体だけの話ではない。人や社会とのつながりを高めることも人間のQoL向上を考える上で重要だ」などと、活発に議論がなされました。

テーマ3以降の講演については、後編の記事でご紹介します

 


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